表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第6話 頑固な男と月夜の彼女
20/44

6‐2

 村を大きく20周走り、腹筋、背筋、腕立伏せを200回。


 ビシャスの指示に従い行った、()()準備運動。

 その結果、地面に這いつくばって荒い呼吸を繰り返す少年少女ができあがっていた。


 その様子を見て、男は楽しげな笑みを浮かべている。


「意外にやるな。だが、まだまだこれからが本番だぞ?」


 その言葉に息を整えていたラウダは思わずむせた。

 これでは本当に軍人の訓練を受けているようである。

 果たして明日自分は生きているだろうか、などという考えがよぎった。


「ラウダ、剣を持て」


 そこへビシャスから声がかかる。

 ラウダは大きく深呼吸をして息を整えると、立てかけてあった剣を鞘から抜き放ち、構えた。


 相手はその様を見て何事かを考えているが、その顔は昨夜の説教の時と同じ、厳しいものだ。

 しばらくして、ビシャスは持っていた大剣を足元に置くと、腰に両手をあて、突っ立った。


「俺に斬りかかって来い」


 突然そんなことを言われ、ラウダは耳を疑う。

 しかし相手は本気のようで、ただじっとこちらを見つめてくるだけ。

 本当にそんなことをして良いものかと、ラウダは躊躇する。


「怖いか」


 そこへたった一言、ビシャスが問うてきた。


 確かに怖い。しかし何が怖いのか。

 人に斬りかかるという行動が怖いのか。自分の手を汚してしまうのが怖いのか。

 それとも――


 ラウダは目をつむると自身を落ち着けて――開眼と同時に切りかかった。



 はずだった。



 カランカランと音を立てて、剣が落ちる。

 気がつくと、ラウダは地面に仰向けに倒れていた。


 一瞬何かが起こった。

 しかしそれは、2人の様子を見ていたローヴにも判然としない。


「お前、その剣術は誰に教わった?」


 ラウダが目をぱちぱちとしていると、ビシャスがそう尋ねてきた。

 驚きで未だ身を起こせずにいるラウダは、とりあえずそのまま答える。


「劇団の団長に基本を……でも後は自分で」


 ビシャスの眉間にしわが寄った。


「劇? そんなもんやってんのか?」


 何だかよく分からないが、ラウダはこくりとうなずく。

 ビシャスはしばらく考え込むと、何事かを察したようにラウダを見下ろした。


「そうか、だからお前――」

「え?」


 言葉の後半が聞き取れず、思わず聞き返すも、ビシャスは答えず、ただ表情を険しくした。


「戦闘と芝居は違う! そんな型にはまった動きじゃ隙が大きすぎて、相手に狙ってくれと言ってるようなもんだ!」


 相手の厳しい言葉に、ラウダは黙り込むしかない。


「どうやらお前には魔法を教えるより、剣技を一からたたき込んだ方が良さそうだな」


 ようやく身を起こしたラウダは、魔法を教えてもらえないと分かると内心がっかりした。

 ローヴほどではないが、実は彼も少しばかり魔法が使えることを期待していたのだった。


「次はお前だ、ローヴ」


 それまで2人のやりとりに集中していたローヴは、突然名前を呼ばれてびくりと肩を揺らす。

 ドキドキしながらラウダと場所を入れ替わると、ビシャスは先ほどと同じように突っ立った。


 そっと剣を抜くと、未だに綺麗な刀身が光を受け輝く。


「その新品の剣で俺を斬ってみろ」


 緊張で鼓動が早くなる。

 おまけに手汗で剣を取り落としそうだ。

 剣の構えを見るだけだと心を落ち着けるが、何かを傷つけることが怖いことに変わりはなかった。


 剣の振り方など知らない。

 それでもきっと大丈夫だと言い聞かせ、相手に斬りかかった。



 鮮血が飛び散る。



 ローヴは剣を取り落とすと口元に手を当てる。


 ビシャスは避けなかった。ラウダの時と違い、微動だにしなかった。

 そのため右腕の肘から手首までが斬り裂かれ、血が流れ出している。


 その痛々しい光景から思わず、顔を背けようとした。


「目を背けるな!」


 しかしビシャスに止められ、ローヴは恐々とその様を見つめる。


 彼女がきちんと見ていることを確認すると、相手はゆっくりと左手で傷口を覆うように添えた。


「アプル!」


 左手からふわりと白い輝きが生じ、傷口に伝わる。

 そしてビシャスが手を退けると腕は元通り。傷口などどこにあったのか分からなくなってしまった。


「今のはアプルっていう初級の回復魔法……って何驚いた顔をしてんだ?」


 傷が一瞬で消えてなくなったことにローヴは目を丸くしていた。


「魔法の1つや2つくらい見たことあるだろ?」

「あ、ありますけど……」


 ローヴはこの村へ来る途中のことを思い返す。

 あの時はセルファがラウダの傷を癒していたが、今のとは違う魔法だった。


「抵抗、だな」


 不意にビシャスにそう言われるが、何のことか分からず、彼女は首を傾げる。


「命ってのは傷つけられた分だけ死に近づく。だからこれは少しでも死から遠のくための術だな」


 この男がそんなことを言うとは思いもしなかった。

 その言葉を深くかみしめていると、ビシャスがにやりと笑む。


「剣術はラウダ以上にひどいな」

「うぐ……」


 ローヴは思わず後ずさった。

 彼はくっくと笑いをこぼすと、2人の顔を交互に見る。


「さーて……どうしてやろうか」


 ラウダとローヴはまたしても身震いするのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ