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昼食を終えて部屋に戻ると、4人は旅立ちの準備をする。
とはいえ、ラウダとローヴの持ち物といえば武器くらいのもの。
そんな、あまりにも無防備な彼らを見て、ノーウィンは苦笑した。
「出発の前にまず買い物だな」
旅をしたことのない2人は、必要なものを彼に見繕ってもらうこととなった。
宿を後にした一行は、ノーウィンに連れられ、大きな通りへと足を踏み入れる。
「わあ……!」
通りを初めて訪れた2人は、思わず感嘆の声を上げた。
「安いよー!」
「ぜひ見ていってくださーい!」
飛び交う威勢の良いかけ声に、手を打ち鳴らした呼び込み。
「それ見せてもらえるかい」
「旦那、目の付け所が良いねえ!」
「これは一品もので――」
「まあ、素敵」
大通りにはずらりと露店が並び、多くの人々でにぎわっていた。
店主と楽しそうに会話をしている客。男女で仲良く買い物をしている客。
中には、商人らしき客が品定めをしている姿も見られた。
活気あふれる光景に、ラウダもローヴもしばし見入ってしまう。
「ここは商人が集う街として有名なんだ」
そんな2人にノーウィンが話しかけた。
「元々は寂れた街だったらしいが、余ってる土地を街興しとして有効活用するために、商人たちに安価で貸し出したそうだ。おかげで今じゃここに来れば大抵の物はそろうって言われてるほどさ」
「それで露店が多いんだね」
納得してうなずくラウダの横で、ローヴが目を輝かせている。
「アクセサリー屋に雑貨屋……本屋もある! あっ、見て、ラウダ! あそこには鏡専門店なんかあるよ!」
今にも駆け出しそうな勢いの彼女に、ラウダは呆れ顔を浮かべた。
ノーウィンはそんな2人を見て楽しそうに笑った後、何気なく気になったことを問う。
「2人の住んでる街にはこんな風に店とかないのか?」
「こんなにたくさんはないよ。花屋とか雑貨屋とかはあるけど」
「あと、洋菓子屋もね!」
ラウダの返事にローヴは、「これは外せない」と言わんばかりに付け加えると、再度あちこちに目を向け始めた。
「ローヴは買い物が好きなんだな」
微笑ましい様子でそう言うノーウィンとは対照的に、ラウダはため息をつく。
「あっちこっち引っ張り回されて大変だけどね……」
「良いじゃないか、女の子らしくて」
「さすがノーウィンさん! よく分かってる!」
辺りをきょろきょろしていたローヴだが、どうやらしっかり聞いていたらしい。
2人の方を振り返ると、ノーウィンを称賛した。
楽し気な彼らの姿を、セルファは後ろからじっと見つめていた。
* * *
種々雑多な店を見て回った後、一行は旅に必要なものを購入するため、ノーウィンがよく行くという道具屋をのぞく。
天幕が張られた店には老齢の男が1人。ノーウィンにとっては顔なじみの店主だ。
「おや、ノーウィンさん。今日はどういったご用で?」
「これからちょっと長旅になりそうなんだ。色々と見させてくれないか」
「もちろんです。……ところでそちらのお二方は?」
店主の視線の先には、露店内に所狭しと並ぶ商品の多さに目を丸くする少年少女の姿。
「ああ、実はこの2人も一緒に行くことになってさ。初めての旅なんだ」
店主はじっと彼らを見つめる。
「……なるほど。必要そうなものを見繕えば良いのですね?」
「頼む」
腕の立つ傭兵が、初めて旅に出るという子供2人を連れている――
訳ありなのは一目瞭然だろう。
しかし店主は何も言わず、ラウダとローヴの旅支度を整えてくれた。
必要な品が一通りそろったことを確認すると、ノーウィンが代金を支払う。
「どうぞお気をつけて」
「ありがとう」
そんな軽いやり取りだけすると、一行は店を後にした。
「さて。道具はそろえたから、あとは食料を—―」
「ノーウィンさん」
ノーウィンの言葉をさえぎったローヴ。
見れば、何やら難しい顔をしている。
「どうした?」
「あの……財布を貸してもらえませんか?」
突然そんなことを言い出す彼女に、ラウダが渋い顔をした。
「ローヴ、勝手に買い物するのは良くないよ」
「何か欲しいものでもあるのか?」
ノーウィンが笑顔で尋ねるが、2人の反応を見た彼女は、はっとなった様子で慌てて首を左右に振る。
「あっ、違うんです! そうじゃなくて! 財布の中身……お金、貨幣を見せてもらいたくて!」
「ああ、そういうことか」
言いたかったことを理解したノーウィンは、財布を取り出すと、ローヴに差し出した。
彼女はお礼を言うと、真剣な表情で中にある貨幣を確認し始める。
「ローヴ、貨幣に興味あるの?」
確かにこの世界の貨幣もまた未知のもの。
確認したくなるというのは分かる。が、まさか彼女がそういったものに興味を示すと思わず、ラウダは首を傾げた。
しかし、ローヴは返事をすることなく、財布の中を入念にチェックしている。
「ローヴ?」
「見て、ラウダ」
怪訝な顔をするラウダに、ローヴは一枚の硬貨を取り出して見せた。
どこからどう見ても日頃からよく見る硬貨だ。
それの何がおかしいのか分からず、ラウダは首を傾げる。
「分かんない?」
呆れた様子でそう問われたラウダは、もう一度まじまじと硬貨を見つめ――ようやくあることに気づいた。
ここは自分たちの世界とは異なる地。
だがその硬貨は日頃からよく見るものだった。
「どうかしたのか?」
そんな2人のやり取りを見ていたノーウィンが不思議そうに尋ねた。
「この貨幣、ボクたちの世界で使われているものと全く同じなんです」
難しい顔でそう告げるローヴに、ノーウィンは思わず眉をひそめる。
「本当に同じものなのか? 似てるとかじゃなくて?」
「表も裏もデザインが全く同じだ……」
彼の問いをよそに、紙幣も確認していたラウダがつぶやいた。
確認のしようがないが、厚さや大きさ、触り心地も全く同じような気がする。
そこで不意にローヴがあることを思い出した。
「そういえば、太陽神と月女神の話も一緒だった……」
太陽神と月女神、そして勇者の伝説。
気にも留めていなかったが、日曜学校で聞いた話とセルファの話はほとんど同じ内容だった。
そこで、思案していたローヴがある考えを示す。
「もしかしてボクたち、タイムスリップしちゃったとか……?」
まさか、と言いかけたラウダだが、考えてみればリジャンナのおとぎ話には魔物や魔法が出てくる。
ということは過去にそれに関係するものがあった可能性もある。
「ここは、過去の世界?」
しかし考えたところで答えが出るものではない。
もやもやした気持ちを抱えながら、一行はその場を移動することにした。
* * *
「ここから東へ向かうとリースという村があるわ。まずはそこが目的地」
必要なものをそろえて街を出ると、セルファが行くべき道を示した。
だが、先に広がるのは平原のみ。
遠くに山は見えるが、村などどこにも見えない。
「えっと……歩いていくんですよね?」
不安になったローヴは思わず確認してしまう。
「ああ。一応馬車って手もあるが、俺たちの移動手段は基本的に徒歩だからな」
そう言われて、ラウダとローヴは再度目的地があるらしい方角を見やった。
やはり緑が続いているだけで、家の一つも見えない。
「半日あれば行ける距離だから、心配しなくても大丈夫さ」
不安な面持ちの2人に笑いかけると、ノーウィンは颯爽と歩き出した。
同様に歩き出したラウダはそっと右手を見る。
今はあの不思議な紋様も光もない。
勇者として世界を救う。
自分はそんな大層な人間じゃない。だというのに何故このようなことになってしまったのか。
初めての旅。それは、大きな不安を拭えぬまま、始まるのだった。
第4話読んでいただきありがとうございます!
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