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ボクたちのてのひら【改稿版】  作者: 雨露りんご
第3話 手のひらは太陽へ
12/44

3‐4

 まばゆい光が辺りを照らす。

 太陽のように、温かく、優しく包み込んでくれるような光。


 それまで身動き一つできなかったラウダが、ゆっくりと立ち上がり、右手を天へと伸ばした。

 同時に彼の体から白銀の光があふれ、手のひらから吹き出したのだ。


 光は複数に分裂し、鞭のようにしなやかに、矢のように鋭く、確実に敵を撃ち貫いていく。

 さらに、それは傷ついた仲間たちの体を癒し、折れ曲がった右腕も、手足の傷もいつの間にか元通りになっていた。


 果たして何が起こっているのか。

 ローヴもノーウィンもただただ呆然と飛び交う光と倒れていくゴブリンたちを見ていることしかできない。


 しかしセルファだけは目を見開き、興奮した様子でラウダを見つめている。


「ソル……? 彼がそうなの……?」


 その言葉は誰にも聞こえなかったが、彼女の左手が返事をするように強い黄の光を放っていた。


 やがて光が納まると、ラウダはぼんやりとした顔で自分の右手のひらを見つめる。

 そこには複雑な紋様が白く浮かび上がっていた。


「これが……僕の……」


 それだけつぶやくと、再び地面に倒れ込んでしまう。

 慌ててノーウィンがラウダの元へと駆け寄った。


「ラウダ!? ねえ、どうしちゃったの!?」


 続いて駆け寄ってきたローヴが大声で叫ぶ。


「大丈夫。気を失ってるだけみたいだ」


 ラウダの状態を確認したノーウィンは、次に辺りを見渡した。


 先の攻撃で大部分が物言わぬ屍となり、すでに壊滅状態のゴブリンたち。

 しかし、攻撃を免れたものもいたらしい。


「コロセ、コロセ、コロセーッ!」


 例の魔法使い姿のゴブリンが地団太を踏みながらそう叫ぶと、生き残ったものたちは武器を手ににちゃりと笑み、こちらへ歩を進めてきた。


「指示を飛ばしているところを見るに、あいつが親玉だな」


 武器を手にすっくと立ち上がるノーウィンだったが、そこへセルファが悠々とやってくる。


「……後は任せて」

「行けるのか?」


 問いに対し首を縦に振ると、セルファは両手を胸の前で組み合わせ、瞳を閉じた。


 これから何をしようというのか。

 判然としないローヴはただ不安な面持ちでラウダの側に屈み込んでいるしかない。


 その間にもゴブリンたちは徐々にこちらへと歩み寄って来ていた。


 不意にセルファの左手から黄色い輝きが放たれる。

 彼女は両手を解くと、ゆったりとした動きで舞い始めた。

 緩急をつけた舞と帯のように揺らめき輝く光。


「目覚めよ地竜……」


 一通り舞い終えると左手を天にかざし、目をカッと見開いた。


「アースインパクト!」


 光が一際強く輝いた直後、地面に大きな亀裂が走る。

 そこからはあっという間。

 まるで地面が大きな口を開けて丸のみにするかのように、敵も屍も地の底へと飲み込まれてしまったのだ。


 その光景を見たローヴは、呆然と荒れ果てた地面を見つめていた。


 ここは自分たちが住んでいた世界とは全く違う世界。

 そう改めて認識させられるのだった。


「あとはあいつだけだ」


 ノーウィンの言葉に我に返ったローヴは、彼の視線の先を追う。

 そこでは魔法使い姿のゴブリンが困惑した様子で周囲を見渡していた。


 いつの間にかセルファはすでに敵の元へと向かっている。


「ローヴはラウダの側にいてやってくれ」


 そう言うや否や、ノーウィンもまた槍を手に駆けていった。


「あ……」


 とっさに返事できなかったローヴはただその背を見送ることしかできない。


 *     *     *


 親玉の元へたどり着くなり、セルファは鋭い刃先を相手に突きつけた。


「……あなたの目的は何だったの?」


 冷ややかな声と刺すような視線。

 少しでも動けば斬られるということは、知能の低いゴブリンでも理解できたらしい。

 石像のように固まった親玉は、恐る恐る話し始めた。


「ウギャ……オレタチ、アバレル、シゴト」


 片言ではあるが、どうやら意思疎通はできるようだ。


「オオキナウチ、クイモノイッパイ。アイツ、クレル。ヤクソク」


 語られる内容にセルファは眉をひそめる。


「アイツ、ツヨイ。オレタチ、ツヨクシテ、クレタ」

「……他には?」


 ゴブリンはしばし考え込んだ後、ぽつりとつぶやいた。


「……クロイ」

「……黒い?」


 意味が分からず思わず復唱するも、それきり相手は黙り込んでしまう。

 果たしてゴブリンの語る内容に嘘偽りはないのか。

 本来なら低知能のゴブリンが嘘をつくなどとは考えられないのだが、そもそも今回は人間と会話ができるほどに知恵を有した相手。


 思案するセルファ。だが、それがいけなかった。

 相手が油断していることに気づいたゴブリンは、ここぞとばかりに大きく杖を振りかぶる。


 が、しかし。


 魔物としての本能が、自身に迫る危険を察知した。

 何かがこちらへ向かってくる。


 慌ててそちらを見やると、赤い髪の男が眼光鋭く槍を構え、こちらへ駆けてきていた。


「グギャアッ!」


 ゴブリンは声を上げると、杖を両手に握り、何事かを念じ始める。

 相手が何をしようとしているのか分からず、セルファは怪訝けげんな顔を浮かべていたが、周囲に漂う気配を感じ取り、驚愕の表情を浮かべた。


「魔法……!?」


 なんとこのゴブリン、今まさに魔力を解き放とうと詠唱しているのだ。

 どうやら魔法使いなのは格好だけではなかったらしい。


 セルファは急ぎ短刀で攻撃するが、何度斬りつけようと相手はまるで動じない。

 行動を止めることができないうちに、ついにゴブリンは杖を前に突き出し、膨れ上がった魔力を解き放った。


 魔力は巨大な炎の玉となり、標的を焼き尽くさんと容赦なく降り注ぐ。


「火の中級魔法……イグニスボール!?」


 ただでさえ雑魚のゴブリンが魔法を扱うだけでも驚きだというのに、いきなり中級魔法を放つなど前代未聞。

 セルファは愕然とした表情で燃え盛る炎の中に男の姿を探す。


 ゴブリンはというと、嬉しそうに何度も杖で地面をたたきつけている。


 しかし――


「ゲギャッ!?」


 歓喜から一転。ゴブリンは驚きの声を上げ、目を丸くした。

 炎の中、男が一直線に突進してくる。


 どうやら魔法をぶっ放す力があっても、コントロールする力はないらしい。

 さらに現状おろおろしている様子を見るに、一発限りの大技だったようだ。


「うおおおおおおっ!!」


 ノーウィンは力強く叫ぶと、槍を水平に構え、力の限り貫いた。

 そのまま右上へと引き上げて抜き放つと、赤黒い液体が大量に吹き出す。


「グ……ギャ……」


 ゆっくりと真横に崩れ落ちる巨体。

 その重さで辺りに砂ぼこりが舞い上がる。


 ノーウィンは槍に付着した液体を払うと、それを見やることなくローヴの元へと歩き出した。


「……おやすみなさい」


 そう言って一瞥すると、セルファもまたノーウィンに続く。


 全身に赤黒い液体を浴びた2人の姿。戦い終えた後の無に近い表情。

 各所に散乱しているゴブリンだったもの。

 そして気を失っている幼なじみの顔。


 それらを順に見やった後、ローヴは大きくため息をついた。

第3話読んでいただきありがとうございます!


「面白かった!」「続きが気になる!」など、少しでも思っていただけましたら、是非ブックマークや評価にて応援よろしくお願いします!


一評価につき作者が一狂喜乱舞します。

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