脱出の希望と握った手と手
第八章 脱出の希望と握り合った手と手
1
組織の指令室は、大変な騒ぎになっていた。広い作りをされているこの部屋には、パソコンが何台も並べられていて、そのパソコンに、組織の人間が慌ただしく動き回って情報のやり取りをしていた。その部屋に何台もあるモニター画面には監視カメラからのゼロとトウヤの映像が映し出されている。
そんな組織の指令室の扉が勢いよく開いた。
「おい、何事だ!」
そこから入ってきたのは、状況をまったく把握できていないというマスターだった。マスターの後には武装済みの部下が二人ほど、マスターに連れられて指令室の中に入ってくる。
「はっ、それが・・・」
マスターは移動していた、組織の人間を一人捕まえて事情を聞こうとする。
「なんだ、早く言え、私もそんなに暇じゃない!」
戸惑っているその男にマスターは怒ったような口調で言う。
「情報部の知らせによれば、試作品のナンバーゼロがあの部屋を抜け出し、人質として捕らえていたマリオの息子、トウヤ・ウローラと共に脱走中とのことです」
「なんだと!?なんでゼロがあの部屋を抜け出すようなことができたんだ?」
「はっ、それが私たちにもよく分からないのです。部屋の前の監視カメラはすでに破壊されており、確認の部隊をゼロの部屋に向かわせたところ、部屋の警備をしていた男が死体として発見されました。どうやら内部の人間がゼロを先導した模様です」
男にそう言われてマスターは急に頭を抱えだした。
今までゼロの面倒を見てきてやったのに、その仕打ちがこのざまか。
「マスター!」
マスターが怒りをこらえきれずに舌打ちをした時だった。後ろから、組織の男がマスターを呼び止めた。
「なんだ?」
マスターはそういってその男に振り返ると、敬礼をしたその男は要件を言う。
「たった今、上の命令があなたにじきじきに下されました。なんとしてもゼロとトウヤを始末しろとのことです」
自分の犯した過ちは自分でけじめをつけろということか・・・。
「それで、今奴らはどこにいるんだ?」
「たった今、エレベーターで移動中です」
そう言った男は、首でマスターに部屋の前の大きなモニターを見るように合図を送った。マスターはそれを見て、再び舌打ちをする。
指令室の前の大きなモニターに映っていたのはエレベータの個室で、仲よく手をつないだ、ゼロとトウヤの姿が映っていたからである。
2
エレベーターについていたカメラのレンズには、トウヤと手をつなぐ私の姿が反射して映っていた。暖かいトウヤの手のぬくもりを感じながら、私はエレベータの今の階を確認した。
さっきの男の返り血を浴びた服からは、どうも血生臭い臭いがする。やっと私たちはここまで来ることができた。ここからエレベーターで一階まで降りて組織の一般社員も混ざるロビーにたどり着くことができれば、きっと組織の連中もライフルで私たちを襲うことはなくなるはずだ。
この組織は裏ではいろいろと他言できない悪いことをしているとは言えども、表向きはただの営業会社の一つだ。何十人もの社員がここに行きかう中、組織の本当の姿を知る者はその中の一握りしかいない。そんなこのビルで銃撃戦があったとしたら、この会社の評判は一気に下がってしまう。さすがにそんなことはしないと私は考えていた。
そして一階に出れば、まだこの時間なら一般の多くの社員が行きかうはずだ。
その人たちを今度は私たちが人質として使う。
私の考えはこうだった。別に殺すことはない。ただこのビルから脱出さえできればそれでいいのだ。この銃があればそれが可能になる。
そう考えながら私は握りしめていた銃を見た。ようやく脱出できるという希望のようなものが見えてきたような気がした。
「トウヤ君、もう少しの辛抱だから、頑張ってね」
私はトウヤの顔を見ながらそう言うが
「・・・・」
トウヤは私の顔を合わせずに何も言おうとしなかった。
「トウヤ君・・・?」
「おねえちゃん、僕、おねえちゃんのこと信じてるから・・・」
トウヤは私に目線を合わせることなくそう言うと、私の手をギュッと強く握りしる。
「・・・うん」
私はそう言うと少し微笑みを浮かべてエレベーターの扉が開くのを、トウヤと一緒に待った。ようやく、トウヤと一緒に脱出することができるんだ。これで本当に二人で脱出することができたら、まずは、トウヤに謝らなくっちゃね・・・。
私は強く握られたトウヤの手を握り返した。




