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ゼロの世界  作者: 大塚 束紗
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決断と悪夢

 第九章 決断と悪夢





 エレベーターの扉が開くと、私は持っていた銃を天井にかざした。ビルのロビーでは多くの人が行きかいをしながら、私たちのことなど気が付いていないという様子で通りすぎて行く。

 タァンッ!!

 一発の銃声が広いロビーへと、透き通るように響き渡った。私の構えていた銃から一発分の空薬莢が、銃声で静まり返ったロビーの私が立っている床へとコロンッと音を立てて落ちる。その銃声で、人の話し声で満ちていたロビーは、一瞬のうちに静まり返り、どの人も私たちの方へと視線を向けた。

 私はそんな人たちを見て、上にかざした銃を下し、まずは目の前にいたスーツ姿の男に銃を向けた。

「道を開けて!じゃないとここにいる人たちを一人ずつこれで殺していく!」

 私がそう言うと、目の前のスーツ姿の男は両手を上に向けて怯えて声を出しながら、二、三歩と後ろへとさがる。

 そんな光景を見ていたロビーにいる人達は、どんどんロビー入り口への道を開けていく。

 私とトウヤは、その道を歩いた。静まり返ったロビーでは緊迫した空気が流れている。銃が一つあるだけでこんなことになるのかと、つくづく私は銃の存在が怖くなって仕方がない。

 私たちがその開けた出口までの道を歩いてもう少しで出口に出られる、というそんな時だった。

「おい、あれなんだ?」

 近くにいた男が指をさしながら、私たちの後ろを指さすのが見えた。

「あいつらも銃を持っていないか?」

 その男の声で私は後ろを振り返った。そこにいたのは一瞬見たところ六人はいる組織の武装した男たちだった。男たちはロビーの二階の手すりに普通のアサルトライフルより大きい、機銃と呼ばれる何発も連射可能の銃をどの男も構えていた。

「え?」

 私はその光景に唖然として立ち止まってしまった。私の横をずっとついてきていたトウヤが

「どうしたの?」

と私の顔を見て問いかける。

 私はつい、目を疑った。ここにいる私たちを仕留めるのなら、機銃という重火器なんか使わないはずだ。きっと奴らは私たちを含めたここにいる全員を皆殺しにするつもりだ。いったい何のために・・・。

「おねえちゃん・・・あれ・・・」

 トウヤが私の手を引っ張りながら銃を構えた男たちに気が付いた様子でそう言った。

「・・・・」

 トウヤにそう言われたが、驚きのあまり頭に浮かぶどの言葉も口に出すことができない。

 私の考えが甘かったのだ。ここにいる一般市民を人質にすれば、この施設を脱出できると思っていた。だが奴らはここにいる人たち全員を巻き込んでなお、私たちを殺したいようだ。

 そんなことをしたら大惨事になることは目に見えている。組織は何を考えているのか私は理解することができなかった。

「おねえちゃん!しっかりしてよ!早く逃げないと死んじゃうよ!」

 トウヤが私の腕を強く引っ張った。その声で私は我に返ると、トウヤの手をしっかりとい握りしめて、

「トウヤ、出口まで走って!」

 というと、勢いよく開かれた道を走り出す。

 組織の人間は私たちが走り出したのを合図にしたように機銃の引き金を引いた。

 ダダダダダダダダッッッ!!!

 ロビーのあちらこちらで何発もの銃声音が響き渡り、それと同時に人々の叫び声が聞こえてきた

 ダダダダダダダダッッッ!!!

 組織に男たちは機銃でロビーにいた私達を含めた一般市民をまるで、虫を殺すように機銃を二階から乱射しだした。

 ロビーは一瞬のうちパニックになり、どんどんと出口へと向かう人たちが背中から銃で撃たれて血を飛ばししながら息絶えるのが見えてくる。そしてまるで地獄絵図のような有様にビルのロビーは一瞬のうちに変わっていく。

 逃げないと・・・。私はそればかりを考えていた。

 ロビーから逃げ惑う人たちの中に紛れつつ私たちは出口へと向かう。

 なんで奴らはこんなことができるのだろう?そんな疑問が浮かんできた。当然正当な理由など持ち合わせてはいない。組織の考えることやっぱり分からない。

 私は必死にトウヤの手を引っ張ってようやくビルの出口へとたどり着いた。出口を抜ける。ガラスでできたビルの扉は、銃撃で割れ床に無数の破片が落ちる。そのガラス扉を抜けると、広いコンクリートでできた敷地があった。その敷地に直線で引かれてある白いコンクリートでできた道を進んでいくと、車両が行きかう道路へとたどり着くことができる。

 私はトウヤの手を引っ張りながら無我夢中で走った。

 ロビーでの銃撃の音。ビルのロビーにいた一般市民の泣き叫ぶ声。さまざまな音がこの空間を覆い尽くした。

 私たちのいるこの場所で、何人もの人たちが死んでいく。それは私のせい?私が組織にはむかったからこんな結末を迎えることになったのだろうか?

 そんなことはないと私に言い聞かせるが、震えが止まらない。

 ダンッダンッダンッ!

 その銃声で私の左肩が血をはじかせて吹き飛んだ。

「グゥッ!・・・」

 私はすかさずしゃがみ込んでトウヤとつないでいた手を離して血が出ている私の左肩を抑えた。痛すぎてもう痛いという感覚を通り越している。そんな感じがした。

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

 立ち止まった私を気遣うようにトウヤが言う。

「大丈夫、大丈夫だから早く、早くここから・・・」

「でもお姉ちゃん、肩から血が!」

 その時だった。後ろから何者かが歩きながら近づいてくる気配が分かった。それと同時に銃声も近づいてくる。もうなにが私たちに近づいてくるのかすぐに理解することができた。それは組織の武装した男たちだ。ロビーの制圧が終わり、外まで銃を持って出てきたのだ。

 どんどん私たちの方へ近づいてくる。その気配にトウヤはまだ気が付いていない様子で、私の肩を心配そうに見つめている。

 早くしないと・・・。

 私はそう思うと血が出た私をしゃがみながら見るトウヤを片手で押しのけた。

「トウヤ君、あなただけでも走って!」

 私はそう言うと、すぐに立ち上がって持っていた、拳銃を片手に握りしめる。

「でも・・・」

「いいから早く!」

 私はそんなトウヤを怒鳴るようにして言う。そう言われたトウヤは、立ち上がりコンクリートの道を、うんっとうなずいて走っていく。

「お姉ちゃん、死んじゃ駄目だよ!」

 最後にトウヤは私の顔を見ずにそう叫んだ。そんなトウヤの背中を私は何も言わずに目で追った。

 死なないよ。私はこんなところでは死なない。 

 そう私は、心の中でつぶやくと。そんなことをしているうちに武装した組織の男たちが、私たちに少しずつ近づいてきてきた。

 私はその銃を向けて乱射する男たちの方へ、振り向いて握りしめていた拳銃をそっと向ける。

 私は今まで人を殺すためだけに、銃を向けてきた。でも今は人を守るために銃を向けているんだな・・・。この世界でたった一つの大切な、友達を守るためだけに。

 私はそう思い、拳銃の標準を向かってくる武装した男三人の一人に合わせた。そして引き金にかけていた指を引こうとしたその時だった。

 パキューン! 

 どこからともなくスナイパーライフルを撃つ音が聞こえた。その音がした瞬間に、目の前のマシンガンを構えてこちらに向かってきていた男一人の胸に、穴が開いて無残にも崩れ落ちるのが分かった。

「何?」

 私はそう口にする。突然起こったことに動揺を隠せない。それはこちらに向かってきている組織の男たちも同じだった。

 パキューン!

 また聞こえたと思うと、もう一人の男の頭が吹き飛ぶ。

 誰かが組織の武装した男たちめがけて狙撃している、今はそれだけが分かった。でも誰がいったい何のために・・・。

 私たちにマシンガンを構えていた男は三人。そのうち二人が狙撃によってやられたことによって、残った一人の男は動揺を隠せないという様子で、あたりをキョロキョロと見渡したと思うと、何を思ったのかマシンガンを投げつけて背を向けて逃げ出してしまった。

 そんな男を狙撃者は見逃さない。

 パキューン!

 再び銃声が遠くから聞こえたと思うと、逃げ出した男はすでに倒れていた。

 そうだ、今のうちに!

 私はそう思うと、握りしめていた銃をしまうと、トウヤが走った方向へ足を進めた。















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