化物め!
第七章化け物め!
1
『総員、直ちに戦闘態勢に入れ!繰り返す、総員直ちに戦闘態勢に入れ!』
サイレント共に施設中にそんな放送が鳴り響いた。
「たった今、実験中のナンバーゼロが人質の少年と共に逃走中繰り返す・・・」
静かだった施設の中がいきなり慌ただしくなった。
『現時刻により、ナンバーゼロ、およびその人質の確保または排除せよ!』
2
私は、トウヤに手を引きながら施設の中の廊下を走っていた。今はここからトウヤを助けることしかできない。それが唯一、私のできること。そう信じる。
施設の長く奥まで続く廊下の先にはエレベーターが取り付けられている。そこまでたどり着き、下の階まで降りて、正面から堂々と脱出をする。
それが九割外れる賭けだというのは分っていた。でも、その他にはどうすることもできない。
私たちが走っていると、廊下に間隔を置いて取り付けられていた放送塔から、甲高いサイレン音と共に、私たちを殺すようにと、組織の戦闘部隊に命令が下された。私たちが見つかるのはもう時間の問題だ。
「・・・フフッ」
その放送を聞き終わると、なんだか笑えてきた自分がいた。
これまで私は、この組織のために私の望みをすべて捨てて今まで生きてきたのに、こんなにもあっさりと組織は私を標的に変えてしまった。今までの私の苦労はいったいなんだったのだろう。もう私は引き下がることはできなくなってしまった。今はこの子を守ることだけを考えないといけない。
ダダダダダッッッ!!と銃声が廊下の奥から聞こえてきた。私はその一瞬の判断で、トウヤの手を離し身体を力強く押した。私の押されたトウヤはバランスを崩して、近くでこけてしまったと思った瞬間、前方から放たれた銃弾が私の左肩をかすめた。
「・・・ッ」
私はそんな声を上げながら右手を撃たれた左肩にそっと置いた。どうやら怪我は大丈夫そうだった。服に血はにじんできているものの、たいしたことはない。
「いたぞ!ゼロだ!」
私がそう思った瞬間だった。前方の曲り角からは武装した男一人が、私たちの存在を発見して叫びながら銃を構える。それに続いてきた男二人も現れて私たちの方へと銃を構えた。
「おねえちゃん、大丈夫?」
私のそばにいたトウヤはそう、私に心配そうな表情を向けて話しかける。
「大丈夫だよ。トウヤはそこにいて」
私はそう言うと腰からスッゥとサバイバルナイフを取り出した。私の持っているこの拳銃では、敵のアサルトライフルには歯が立たない。それじゃあナイフでどう戦うのか。でも私には考えがあった。
私はナイフを右手に持ち直したかと思うと、勢いよく前方の男たち三人に向かって走り出した。
「きやがったぞ、撃て!」
男一人が合図をして構えていたライフルを私に向かって発砲する。
ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダッ!
無数に放たれたライフルの弾丸は私の体をどんどんかすめていくが私には一向に当たらない。
そして私は男たちの目の前まで来ると、足に力を入れて宙へと高く飛び上がった。それは一瞬スローモージョンになったかのようなきれいな飛び上がりに、銃を構えていた男たちは、首は反応できても、銃先は私を捕らえることは不可能だった。
「・・・あ!」
男の一人はそんな声を上げたがもう遅い。
私は男たちの背後で、着地しすぐに振り返ると、まずは手前の男の首をナイフで掻っ切った。男は血を首のナイフの切れ目から噴きだしながらがら倒れると、次はその男の斜め横にいた男の心臓へとナイフを抑えるように差し込む。
そんな私の行動に反応ができなかった男は、あっさりとナイフに刺されて、倒れてしまった。
これで二人目・・・残るは・・・。
私はそう心の中でつぶやきながら、男の胸に刺さったナイフを抜きとる。ナイフを抜き取ったと同時に、倒れた男からは大量の血が噴き出した。
「この・・・化け物め!よくも仲間を」
残るはさっき、私の左肩に銃弾を真っ先に浴びせた目の前の男一人だった。
男は怒り狂ったように持っていたアサルトライフルを捨てて、私同様にサバイバルナイフを抜き構え、大声で叫びながら向かってきた。
だが私はその男のナイフが身体に当たる前に、下にしゃがんですんなりとかわして、向かってくる男の勢いを利用して、自分が持っていたナイフを、男の胸元へと勢いよく押し込む。
ナイフはドスッと鈍い音を発しながら、男の身体へと入っていく。それと同時に男の表情からは正気が次第に消えていき、真っ赤になった口元からは、ぽたりと血がにじみ出てきた。
返り血が顔にかかった私は男が死んだのを確認すると、男の胸元からナイフをそっと抜き取り、力なく、私にもたれかかっている状態の男を横へと払うと男の大きな巨体が簡単になぎ倒される。
「私が化け物だってことは、あなたたちが、一番よく、知っていることでしょ!」
私は息を凝らしながら、もう死んでいる男の死体に向かってそう叫んだ。
そう、私はただの人殺しだ。でも私にそうさせたのは、誰でもないお前たちだ!
今、自分が恐ろしい目つきで死体に睨んでいるのが分かる。今までの怒りがここに来てとうとう抑えられなくなってしまったみたいだ。
「私は・・・あなたたちのために今まで生きてきたんだ。あなたたちが言うなら何でもやった。でも私は・・・私は・・・」
そう私が言うと、自然と足の力が抜けてしまい、血で汚れてしまった私の身体をギュッと抱きしめた。涙があふれて止まらなくなる。
化け物、その言葉は私の今までの考えをすべて否定された気持ちになった。私の考えがどんどん頭の中で困惑してくる。私は今、本当に正しいことをしているのだろうか、私は今まで組織にあれだけお世話になったのに、今組織を敵に回してここにいる。
トウヤを救うために・・・。
「私は・・・、私はただ、トウヤを助けたかっただけなの・・・」
もう後に引けないのは分っていた。でも、
「・・・お姉ちゃん」
その時だった。しゃがみ込んでしまった私の身体をギュッと後ろから抱きしめる小さな手があった。それは誰でもないトウヤだ。
「大丈夫だよ・・・」
トウヤは、そんな私に小さくそう言った。その言葉にどんな意味が込められているのかは、その時の私には分からなかった。
でもはっきりしたことが一つだけある。
私は、この子を守ろう。私の最初にできた友達なんだもの。




