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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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木工職人の新作

「姉さん! 居るかー?」


鞄の向こうから、さとるの声が聞こえてきた。


「なあに?」


「寄木細工、売れた!」


「本当!?」


私は思わず立ち上がる。


「うん! しかも、他にもないのか?ってメッセージが来てる!」


「やった!」


やっぱり売れた。しかも、一つ売れただけではない。追加で欲しいという問い合わせまで来ている。


「ならば、職人さんに報告して、注文してくる!」


「分かった。何個くらい?」


「まずは少しでいいわ。いきなり大量に注文する必要はないもの」


「了解!」


私はさっそく村へ向かった。


◇


「そうなのか? 売れたのか?」


木工職人さんに寄木細工が売れたことを伝えると、目を丸くしている。


「はい! それも、他にも欲しいという人がいるんです」


「こんな物がのう……」


職人さんは、自分が作った寄木細工を眺める。


「余った木を使っただけなんじゃが」


「でも、それがいいんですよ!」


地球では、こういう手作り品を欲しがる人がいる。同じものを大量に作るのではなく、一つ一つ違う。木の色も、木目も違う。


「だから、もう少し作ってもらえませんか?」


「もちろん構わんが……」


職人さんは作業台に置かれている木材を眺めた。そして、少し考える。


「では……もう少し作ってみるか」


「お願いします!」


「同じ物ばかりでは面白くないのう」


そう言うと、職人さんは余った木材をいくつか手に取った。


「この木なら、色が違う」


「本当ですね」


「こっちを組み合わせれば、違う模様ができそうじゃ」


職人さんは木材を並べ替えていく。


「それなら、この形も面白いかもしれん」


小さな箱。コースター。小物入れ。

木の色を組み合わせた模様も、少しずつ違う。


「……」


私は思わず笑ってしまった。


「職人さん、楽しそうですね」


「ん?」


「新しい商品を考えてるみたいです」


「まあ、こういうのを考えるのも悪くないからのう」


その顔は、最初に見た時よりずっと楽しそうだった。


「これは、良い流れかも」


私は作業台を眺める。

今まで職人さんは、木材を加工して必要な物を作っていた。でも今は違う。


「何を作れば売れるか」


ではなく、


「この木で何を作ろうか」


と、自分で考え始めている。

しかも、使っているのは余った木材。


「余った木材でも商品になる」


これに気づけば、大きい。

木工品を作った時に出る端材。

捨てていたような小さな木片。

それらを組み合わせれば、新しい商品にできる。


「廃材利用から新商品……」


私は小さく呟く。


「そして、村の収入になるわね!」


水車。農具。布製品。革製品。そして木工品。

少しずつだけど、村の中に新しい仕事が増えている。


「ちほさん?」


「はい?」


「これとこれ、どちらが良いと思う?」


「え?」


職人さんが、二種類の模様を並べて見せてきた。


「どっちも綺麗ですよ!」


「そうか?」


「はい。でも……私はこっちが好きです!」


「ほう」


職人さんは選んだ方をじっと見る。


「なら、こちらを少し改良してみるか」


「お願いします!」


私は思った。

こういうのが、たぶん一番いい。

私が全部決めるんじゃない。

職人さんが自分で考えて、自分で作って、自分で改良していく。

私はただ、地球で売れる場所を提供するだけ。


「もっと面白い物が出てきそうね」


新しい木工品を眺めながら、私は楽しみになってきた。

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