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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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お風呂計画、最初の壁

「村長さん。それと、木の加工をする職人さんと、鉄の加工をする職人さんにも来てもらえますか?」


私は印刷した資料を手に、村長さんにお願いした。


「構わんが……何をするんだ?」


「お風呂を作りたいんです!」


「お風呂?」


「はい!」


私は印刷した紙を広げる。

そこには、大きな木桶のような浴槽と、その下に竈がある昔のお風呂の画像。


「こんな感じです!」


村長さんが紙を覗き込む。


「川で水浴びするのとは違うのか?」


「全然違います!」


私は力を込めて説明する。


「水じゃなくて、温かいお湯です!」


「温かい……湯?」


「そうです。身体を温めながら、ゆっくり浸かるんです」


「なるほど……」


村長さんは、少し不思議そうな顔をしながらも資料を眺めている。


「仕組みは分かったが……」


そのとき、鉄職人さんが口を開いた。


「しかし……この底にする鉄だが」


「はい?」


「こんなに鉄がないぞ?」


「…………」


私は固まった。


「鉄……ないんですか?」


「いや、鉄そのものがないわけではない。ただ、この大きさの板を作るとなると、かなりの量が必要になる」


「なるほど……」


言われてみれば、確かにそうだ。

大きな湯船の下に鉄板を敷く。その鉄板を作るためには、大量の鉄が必要になる。


「……盲点だった」


私は資料を見る。

地球では普通にあるような鉄板。

でも、この世界では貴重な資源だ。

気軽に使えるものではない。

すると今度は、木工職人さんが話し始める。


「それと……」


「はい?」


「燃やす薪も、かなりの量にならないか?」


「…………」


また固まる。


「お風呂を温めるために、毎日火を使うんだろう?」


「そう……ですね」


「一人分ならともかく、大勢が入るとなると、相当な薪が必要になる」


「…………」


確かに。言われてみれば当然だった。

湯船を作れば終わりじゃない。

お湯を沸かさなければならない。

しかも大衆浴場なら、一度だけではなく毎日。


「鉄も必要」


私は指を折る。


「薪も大量に必要」


もう一本。


「水も必要」


さらに一本。


「排水も考えないといけない……」


「……」


私は印刷した資料を見る。

さっきまでは、


「これなら作れそう!」


と思っていた。


でも、実際に村の職人さんたちに話してみると、次々と問題が出てくる。


「確かに……」


私は頭を抱える。


「言われてみれば、当然か……」


「まあ、考えてみれば分かることだ」


村長さんが苦笑する。


「大きな風呂を作るとなれば、それだけ大きな設備も必要になる」


「そうですよね……」


私はため息をつく。


「はぁ……」


お風呂。思っていたより、ずっと大変だ。


「まだまだ、お風呂計画は先だわ」


まずは、その前の問題点を解決しないといけない。


鉄。薪。水。排水。


そして、それらを維持する仕組み。


「一つずつ考えないとね」


私は資料をまとめる。

でも――


「……諦めるつもりはないけど」


せっかく自分でお風呂の気持ちよさを知ったのだ。

村の人たちにも味わってもらいたい。


「さて……何から解決しようかな」


こうして、村のお風呂計画は――思った以上に大きな問題にぶつかったのだった。

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