異世界生活、意外と快適?
「ふぁ〜……」
ちほは大きく伸びをした。
「よく寝た……」
窓の外から聞こえてくる鳥の声。
小屋の中に差し込む朝日。
「鳥の声で起きるなんて……」
うーむ。地球の時と余り変わらん。
「本当なら別荘とか旅行なら最高なんだけどなぁ」
ここが異世界じゃなければ。
「おーい! 姉さん! 起きたか?」
鞄の向こうから、さとるの声が聞こえてきた。
「今起きたところよ!」
「ほれ!」
にゅっ、と鞄の中から手が伸びてくる。
その手には――
「トーストとコーヒー!ありがとう!」
私は受け取る。
焼きたてのトーストに、コーヒー。
「朝からありがたいわ〜」
一口飲む。
「うん。美味しい」
「なあ、姉さん」
「ん?」
「てかさ……」
さとるの声が少し呆れている。
「困ってなくないか?」
「はぁ?」
私は首を傾げる。
「困らせたい訳?」
「いや、そうじゃなくて」
さとるが笑う。
「異世界のお約束だとさ、生き残るのが精一杯とか」
「うん」
「実はこんな能力を見つけたとか」
「うん」
「追放されたとか……」
「……」
「そういう感じじゃないの?」
「何で私が追放されるのよ」
「いや、異世界だから」
「意味分からない」
「だって、異世界のお約束じゃん」
「知らないわよ」
私はトーストを齧る。
「そもそも、私の場合は神様に勝手に飛ばされたんだからある意味、地球から追放?」
「……」
「……」
「まあ、いいや」
「流したな」
さとるが苦笑する。
「それより、昨日渡されたメモ」
「ああ」
私は机の上に置いてあるメモを見る。
家庭菜園に必要な物を書き出したものだ。
「篩は無いな」
「篩?」
「うん」
さとるが店の中を探しているらしい。
「でも、これならある」
ガサガサ。
「何?」
「この細かな目の鉄網みたいなのでいい?」
「……あー」
私は思い出した。
「鶏小屋とかに貼る金網か。それなら使えるかも」
「どうする?」
「丸めて頂戴!」
「丸める?」
「うん」
「分かった」
さとるが金網を丸めていく。
「こっちで広げて、木枠に貼るわ」
「なるほど」
「それで簡易的な篩にする」
「姉さん、意外と考えるな」
「商店やって何年だと思ってるのよ!でも家庭菜園は初心者」
「……」
「昨日、鍬一本で苦戦してたし」
「それは言わない!」
私は立ち上がる。
そして畑を見る。昨日まで荒れていた畑。
今日は少しだけ綺麗に見える。
「よし」
鍬を手に取る。
「今日こそ、ちゃんと家庭菜園やるわよ!」
「そうそう」
さとるが笑う。
「まずはちゃんと家庭菜園やってよ!」
「はいはい!」
私は鍬を構える。
「分かってますよ!」
そして――
「……」
鍬を振り上げる。
「せーの!」
ザクッ。
昨日よりは、少しだけ上手く土に入った。
「……お?」
「おお!」
鞄の向こうから、さとるの声が聞こえる。
「姉さん、成長したじゃん」
「でしょ!」
「昨日は地面に弾かれてたのに」
「……」
「どうした?」
「それは忘れて」
「はいはい」
私はもう一度、鍬を振る。
ザクッ。
「よし!」
異世界生活二日目。
ちほの家庭菜園は――ようやく始まった。




