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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者:


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異世界でも、まずは動画で勉強

「……」


私は鍬を握りしめたまま、荒れた畑を見つめていた。


「鍬がこんなに難しいとは……」


何度振っても、思ったように土へ入ってくれない。


「お婆ちゃん、よくこんな物を振ってたわね……」


近所のお婆ちゃんが畑で鍬を振っている姿を見たことがある。

軽々とやっていたように見えた。


でも、実際にやってみると――


「重い……」


腕が痛い。腰も痛い。

何より、思ったところに入らない。


「売ると実際に使うってのは、こんなに違うものなのね……」


店では何度も売ったことがある。


「鍬ですねー」


なんて言いながら、お客さんに渡していた。

でも、まさか自分が使う日が来るとは。


しかも異世界で。


「そもそも……」


私は鍬を地面に置く。


「家庭菜園なんて、やったことないのよね」


野菜を売る仕事はしていた。

農家さんとも付き合いがある。

でも、自分で育てた経験はほとんどない。


「……」


少し考える。


「まずは動画でも見て学ぶか」


鞄の向こう側からノートパソコンを引っ張り出す。電源を入れる。


「さて。どれどれ……」


検索する。


『家庭菜園 初心者』


『畑 耕し方』


『野菜 育て方』


いろいろな動画が出てくる。


「ほぉ……」


私は動画を再生した。



「はっ!?」


気が付けば、かなり時間が経っていた。


「これじゃ……」


私は椅子に座ったまま、呆然とする。


「休みの日と何も変わらん……」


動画を見る。お菓子を食べる。

また動画を見る。そしてゴロゴロする。


「一日中ゴロゴロして動画見て……」


私は頭を抱える。


「これ、いつもの休みの日じゃない!」


異世界まで来て、何をしているんだ私は。


「……」


ふと、ある可能性が頭をよぎった。


「ワンチャン……」


窓の外を見る。


「ここ、日本のどこかの超ド田舎ってことない?」


まさか。


「たまたまスマホが圏外なだけとか?」


いや、でも森の中だ。

見たことのない植物もある。

それに、あの小屋。


どう考えても日本ではない。


「……ないか」


私は諦めた。


「やっぱり異世界ね」


でも、動画のおかげで家庭菜園の基本は分かってきた。


「うーむ……」


私はもう一度、動画を見る。


「耕すだけじゃダメなのね」


土を耕す。石を取り除き、古い根や雑草を取り除く。土を整える。畝を作る。種を植える。


「石とか、古い根を取り除くのか……」


荒れた畑を見る。


「そんなの、店にあったかな?」


私は立ち上がる。


「必要な物をメモしておかなきゃ」


ノートを開く。そして書き始める。


『鍬』


「これはある」


『スコップ』


「これもある」


『ふるい』


「……あったかな?」


『熊手』


「たぶんある」


『手袋』


「ある」


『ジョウロ』


「大きすぎるけど……」


『肥料』


「これもある」


一つずつ確認していく。


「……」


メモを見つめる。


「結構、必要な物あるわね」


でも、少しずつ準備はできてきた。


「よし」


私は再び鍬を持つ。


「まずは……」


畑を見る。


「石と根っこを取り除くところからね」


……。


「でも、その前に……」


私はノートパソコンを見る。


「もう一本だけ動画見ようかな」


そして――


「……」


再び椅子に座った。


「勉強よ。勉強」


自分に言い聞かせながら、動画を再生する。

異世界生活初日。

ちほは、まだ畑を一度も耕していなかった。

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