異世界でも電気が使える?
「……よし」
私はノートパソコンに繋がったケーブルを確認する。
「有線、繋がったわね」
「うん」
鞄の向こう側にいる、さとるも画面を見ている。
「ちゃんと使えてる。ってことは……」
私はケーブルを少し動かしてみる。
「異世界でも電気が使えるってこと?」
「たぶん」
試しに延長コードを繋いでみる。
そして――
「電気スタンド!」
スイッチを入れる。
パッ。
明かりが点いた。
「おお!使えた!」
まさか、異世界で電気が使えるとは思わなかった。
「じゃあ、これも……」
小型の扇風機を取り出す。
スイッチを入れる。
ブーン……
「使える!こっちはそこまで暑くないけどね。まあ、念のためよ」
電気スタンドに扇風機。ノートパソコン。
延長コード。
「……」
私は小屋を見回す。
「しかし……」
「ん?」
「なんか想像していたのと違うような……」
異世界生活。もっとこう……
焚き火をして。薪を割って。水を汲んで。
不便な生活をするものだと思っていた。
なのに――電気スタンドが点いている。
扇風機も回っている。
ノートパソコンまである。
「まあいいか」
快適なのは悪いことじゃない。
その時だった。
「ねーねー! 姉さん!」
「ん? なに?」
「そっちに頭だけ出してもいい?」
「いいんじゃない?」
「本当!?」
さとるの声が聞こえる。
そして――にゅっ。
「おお……!」
鞄から、さとるの頭が出てきた。
「小屋の中か!?」
「そうよ」
「本当に異世界なんだな……」
さとるがキョロキョロと周囲を見る。
「このまま外にも出られる?」
「いやいや」
私は即答した。
「コード全部また外さないと!」
「そっか!」
さとるが頭を引っ込める。
「しかし……」
「何?」
「改めて見ると……」
「……」
「生首ね」
「だから言ったでしょ!」
私はため息を吐く。
「姉さんも、こっちではこんな感じだと思う」
「まあ……そうよね」
お互いに頭だけを出している姿。
端から見たら、完全にホラーだ。
「しかし……」
さとるが聞いてくる。
「こっちで何するの?」
「うーむ……」
私は小屋の外を見る。
「とりあえず、畑らしきものがあったから」
「うん」
「家庭菜園かな?」
「あー」
さとるが笑う。
「あるあるパターン!」
「何よ?」
「異世界に来たら農業!」
「そんなパターンあるの?」
「あるある!まあ、いいじゃない」
「種も店にあったよね?」
「あるよ」
私は店の棚を思い出す。
「こっちで育つか分からないけど。それなら種も持ってくるよ」
「お願い」
「他には?」
「そうね……」
私は荒れた畑を見る。
「鍬とか」
「鍬?」
「それとスコップ。大きいのと小さいの。あと?肥料かしら?」
「そんなのも店にあるの?」
「あるわよ」
「へぇ」
「たまにお婆ちゃんが買いに来るし」
「なるほど」
「それも持ってきて」
「分かった!」
◇
しばらくして。
「ほら!」
さとるが次々と鞄から荷物を出していく。
「種と鍬。スコップ」
「うん」
「肥料と、あとジョウロ」
「ジョウロはもっと小さいの!」
「え?」
「これ、鞄に入らないわよ」
「これ以上小さいのはないな……」
「なんで?」
「大体、店にあるのが業務用? みたいなのしかないから」
「……」
私は鞄を覗き込んで、ジョウロを見る。確かに大きい。
「……まあ、いいわ」
私は考える。
「こっちで簡易的なのを作れるかしら?」
「んー……」
さとるも考える。
「それなら鋸とか、トンカチ」
「うん」
「釘とか」
「うん」
「あと何だ?」
「DIYで使えそうなのも、いろいろ見てきて」
「分かった!」
◇
しばらくして。
「電動工具は……」
さとるが鞄の入口を見ながら首を傾げる。
「入らんか……」
「入口が小さいからね」
「手動のなら小さくて問題ないな」
「まあ、仕方ないわ」
私は鞄を見る。
「入口、小さいし」
「……」
さとるが何かを思いついたような顔をする。
「電動工具、少しバラすか」
「バラす?」
「そっちで組み立てればいい」
「……ああ!」
確かに。電動工具そのものは大きくても、分解すれば小さくできる。
「それなら私でも組み立てられるかな?」
「まあ、大丈夫だろ」
「じゃあ、お願い」
「ただ……」
「何?」
「時間掛かりそうだから、これは後回しにしよう」
「そうね」
「当面は人力で頼むよ!」
「分かったわ」
鍬を持ち上げる。
「……頑張るか」
「それと」
さとるがノートパソコンを指差す。
「ネットで必要そうなこと、調べておいてよ!こっちでも調べてみるから」
「そうね!」
「うん」
「じゃあ、農業とか」
「分かった」
「異世界での生活に必要そうなことも」
「了解」
「それで、必要な物があったら準備して」
「任せて」
「ありがとう」
こうして私は――異世界で家庭菜園を始めることになった。
……しかし。
「鍬って、結構重いわね」
「姉さん、農業舐めてただろ」
「……ちょっとだけ」




