異世界に持っていく物
「まず。塩、砂糖、胡椒、醤油、味噌、油。それとお米」
「ありがとう~」
さとるが鞄の向こう側から、次々と商品をこちらへ渡してくれる。
「他にも乾麺、スパゲッティ。こんなもんか?」
「うーん……」
私は並べられた食料を確認する。
「缶詰!」
「そっか!」
さとるはすぐに立ち上がった。
「今、何種類か持ってくる!」
「お願い!」
しばらくすると、缶詰がいくつも鞄の向こう側から運ばれてくる。
「これでどうだ?」
「十分じゃない?」
私は並べられた食料を眺める。
米。乾麺。スパゲッティ。缶詰。調味料。油。
「ふぅ~」
思わず息を吐く。
「これで当面大丈夫かな?」
すると、さとるが聞き返す。
「当面って、いつまでよ?」
「さー?」
「さーって……」
「ミカミさんの話だと、手続きが終わるまでゆっくりしてろって言われてるから」
「手続き……」
さとるが腕を組む。
「しかしなぁ~」
「何よ?」
「いや、戻ってこられるのか?」
「私だって、そっちに戻りたいよ!」
思わず声が大きくなる。
「そりゃそうだよな……」
さとるも困ったように頷いた。
「そう言えば」
私はふと思い出す。
「さとる、何しに帰ってきたの?」
「あー」
さとるが少し気まずそうな顔をする。
「もう学校行かなくても卒業だから、手伝おうかと思ったんだが……」
「うん」
「それに、卒業した後に就職してどうしようかって迷ってたんだけど」
「まあ、そっちは好きにすれば?」
「そっち?」
さとるが首を傾げる。
「って、どっちよ?」
「仕事よ!」
「こんな状況で?」
「働かんとおまんま食えないわよ!」
「それはそうだけど……」
さとるが苦笑する。
「まあ、当面こっちにいるから」
「でも、お店の仕事どうしよう!?」
「それなら大丈夫」
「え?」
「さっきミカミさんにメールしたら、任せとけって返ってきたよ」
「そうなの?」
「うん」
「……」
私は少し考える。
「なら、早く戻せって送っておいて!」
「分かった!」
さとるがスマホを操作する。
「送った」
「返事は?」
「まだ」
「まあ、すぐには来ないか」
私は少し安心する。
ミカミさんが店を見てくれているなら、少なくとも店のことは心配しなくていい。
「そうだ」
「ん?」
「パソコンを有線で繋げる?」
「有線で?」
「そう!」
私はスマホを見る。
「スマホは鞄からこっちに出すと、すぐ切れちゃうから」
「確かに」
「でも、有線ならいけるんじゃない?」
「どういうこと?」
「例えばパソコンをそっちに置いて、ケーブルだけこっちに出すの」
「……」
さとるが考える。
「それなら、スマホをこっちに持ってこなくても通信できるかもしれないってこと?」
「そう!」
「なるほど」
「仕事もできるかもしれないし!」
「姉さん、異世界に行ってまで仕事するの?」
「店が心配なの!」
「休めって言われたのに?」
「それとこれとは別!」
さとるが呆れたように笑う。
「分かった。じゃあ、有線探してくる」
「あと、ノートパソコンね!」
「了解」
「お願いー!」
さとるが部屋へ向かう。
私は鞄の向こう側を見ながら呟いた。
「……これで少しは元の世界と繋がれるかな」
異世界に来てしまった。
でも、この鞄がある。そして、弟もいる。
「何とかなる……かな?」
そう思った矢先――鞄の向こうから、さとるの声が聞こえた。
「姉さーん!」
「何ー?」
「有線って、どのケーブル!?」
「知らないわよ!」
「姉さんの方が詳しいだろ!」
「異世界にいる私に聞かないでよ!」
思わず笑ってしまった。
異世界に来ても――結局、いつもの姉弟だった。




