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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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異世界に即席シャワー室

木の湯船を作ってもらうにしても、完成するまでには時間が掛かる。

それまでお風呂に入れないのは、ちょっと厳しい。


「……よし」


私は、昨日さとるが出してくれたアイデアを少し頂くことにした。


お湯をホースでこっちまで引っ張ってくる。

これなら、湯船がなくてもお湯は使える。


「ホースなら、鞄の口も通るしね」


さとるに頼んで、必要な物を用意してもらう。

ホース。シャワーヘッド。

それから、こちら側で固定するための道具。

これくらいなら、問題なく持ってこられる。


「じゃあ、まずはホースを……」


鞄を通して、こちら側へ伸ばす。

そして、その先にシャワーヘッドを取り付ける。


「おお……」


ちゃんとシャワーっぽくなった。


「これを小屋の隅に取り付けて……」


壁際に固定する。

ただ、このままだと水が飛び散ってしまう。

そこで――


「周りをビニールで囲えばいいわね」


地球から持ってきたビニールを使って、簡単な仕切りを作る。床にも水が流れてもいいように、排水しやすいようにしておく。


「よし!」


小屋の隅に、簡単なシャワー室が完成した。

もちろん見た目は――


「……完全に臨時ね」


ビニールで囲っただけのおしゃれとは無縁。

でも、今の私には十分だ。


「問題は、お湯ね」


「さとるー!」


「なに?」


「お湯、お願い!」


「はいはい」


しばらくすると、ホースからお湯が出てくる。


「……!」


温かい。ちゃんと温かい。


「やった!」


私はシャワーヘッドを持って、お湯を出してみる。


「うわぁ……」


温かいお湯が身体に当たる。


「これよ! これ!」


思わず声が出る。

三日間の苗木植えで疲れた身体に、温かいお湯が染み込んでいく。


「はぁ……」


気持ちいい。最高。

もっと早くやればよかった。


「……何でもっと早く気がつかなかったのよ、私は!」


シャワーなら湯船よりずっと小さい。

ホースなら鞄を通せる。

お湯は地球側から送ってもらえばいい。


「こんな簡単なことだったのに……」


私は頭からお湯を浴びながら、しみじみと思う。異世界に来てから、いろいろ考えてきた。


畑を作った。水車を作ってもらった。

農具を紹介した。糸を紡ぐ道具や織り機を作ってもらった。そして今は果樹園まで作っている。なのに――


「お風呂だけ、ずっと後回しにしてた……」


生活の基本なのに。


「まあ、これでいいか」


とりあえず木の湯船が完成するまでは、この臨時シャワー室で十分だ。


「いやー……」


私は温かいお湯を浴びながら、思わず笑ってしまう。


「異世界生活、ちょっと快適になったわね」


ただし――ビニールで囲っただけの臨時シャワー室。これを人に見られたら、どう説明しよう。


「……まあ、いいか」


今は誰も来ない。たぶん。

私は久しぶりの温かいシャワーを、しばらく堪能することにした。

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