異世界に風呂を作ろう
風呂!今の私に必要なのは、何よりも風呂よ!
私はパソコンの画面を眺めながら、ネットでいろいろ探していた。
「折りたたみ式の風呂……」
いくつか商品が出てくる。
「うーん……」
確かに折りたためる。
でも――
「やっぱ微妙よね……」
せっかく異世界で暮らしているのに、ビニール製の簡易風呂というのも、なんだか味気ない。
かといって、普通の湯船は大きすぎる。
鞄の入口を通らない。
「かと言って、空気で膨らますタイプは……」
想像する。
小屋の中に置かれた、巨大な空気風呂。
「……味気ない」
やっぱり嫌だ。
もっとこう、ちゃんとしたお風呂に入りたい。
木でできた湯船とか。
「……木の湯船」
それなら、こっちでも作れそうな気がする。
問題は――
「いや……そもそも、お湯をどうするの?」
私は画面を見ながら考え込む。
湯船があっても、お湯がなければ意味がない。
「五右衛門風呂を……」
いやいや。五右衛門風呂そのものを地球から持ってくるのは無理。
それに、こっちの世界で再現するとなると、釜を作って火を焚いて……。
「……無理だな」
今の私には難しすぎる。
「どうすれば……」
腕を組んで考える。
「うーん……」
「うーん……」
「うーん……」
すると、鞄の向こうから声がした。
「姉さん! さっきから何だよ!」
「え?」
「うーん、うーんって。気になるよ」
「ああ……」
私は鞄の方を見る。
「いやね」
少し間を置いて答える。
「お風呂に浸かりたい!」
「……あー」
さとるが納得したような声を出す。
「そうか」
そして――
「そういえば、少し臭うし……」
「悪かったわね!余計な一言よ!」
「いや、だって姉さん、こっちに来てからタオルで拭くだけなんだろ?」
「そうだけど!」
「そりゃ臭うって」
「言い方!」
私は思わず叫んでしまう。
でも、さとるの言っていることも分かる。
三日間、苗木を植えていた。
土まみれになって、汗もかいた。
その状態でタオルで身体を拭くだけ。
「……まあ、確かにお風呂は必要ね」
「だろ?」
「でも、湯船もこっちに持って来れないし」
「うん」
「こっちの世界で再現出来ても、お湯も沸かせないし」
「うーん……」
さとるも考え込む。しばらく沈黙が続く。
そして――
「あー……」
「なによ!」
「てかさ?」
「だから、なによ!」
「ホースでお湯、そっちに繋ぐ?」
「…………」
私は固まった。
「……そうね」
考えてみる。
ホースなら鞄の入口を通せる。
お湯そのものを運ぶ必要もない。
地球側でお湯を沸かして、それをホースでこっちに送ればいい。
「……確かに」
今まで、どうして思いつかなかったんだろう。
「木の湯船なら、そっちでも作れるのでは?」
「…………」
私はもう一度考える。
「……そうね」
木なら、この世界にもある。湯船そのものを地球から持ってくる必要はない。
こっちで作ればいい。
「それでホースでお湯を貰う」
「そうそう」
「……なるほど」
一気に道が開けた気がする。
「お風呂、作れるじゃん!」
「だから言っただろ」
「いや、まだ作ってないでしょ」
「そこは姉さんが作るんだよ」
「……そうだけど」
でも、今までよりずっと現実的だ。
木の湯船を作る。ホースを通す。
地球側でお湯を沸かしてもらう。
「これなら……」
私は想像する。木の湯船に、温かいお湯。
そして――
「ざぶーん……」
思わず口に出してしまった。
「姉さん?」
「……何でもない」
「絶対、風呂入ってる想像してただろ」
「うるさい!」
こうして私は、異世界生活を始めてから初めて――本格的な「お風呂」を作ることになった。
問題は、木の湯船をどうやって作るかだけど。
「……また村の人に相談かな」
今度は風呂。
少しずつ、私の生活も便利になっていく。
そして何より――
「早く入りたい……」
これだけは、譲れなかった。




