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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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苗木運びは重労働

あー! 疲れた。

丸一日、苗木を植えていた。


「……腰が痛い」


しゃがんで穴を掘って、苗木を植えて、土を戻して、水をやる。

これを何度繰り返したことか。


しかも――


「まだまだ苗木が残ってるのよね……」


昨日運び込んだ苗木は、思っていた以上に多かった。今日一日でかなり植えたつもりだけど、それでも残っている。


「このペースだと、あと二日近く掛かるな」


まあ、仕方ない。


「気合い入れて終わらせないと」


せっかく貰った苗木だ。


弱っているものもあるけど、鑑定では成長可能性が高いものも多かった。

ちゃんと植えて、育つかどうか試してみたい。

私は残っている苗木を眺める。


「……しかし、多いな」


改めて見ると、本当に多い。

最初は数本くらいだと思っていたのに。


「何で何十本も貰ってくるのよ、さとる……」


まあ、貰えるものを貰ってきてくれたのだから、文句は言えない。


問題は――


「運ぶのが大変なのよね」


苗木を数本まとめて背負子に載せる。

よいしょ、と持ち上げる。


「重い……」


一本一本は大した重さじゃない。

でも、何本もまとめて運べば、それなりの重量になる。しかも、植える場所は小屋から少し離れている。


「これを何往復するんだろう……」


考えたら嫌になってきた。

そこで、ふと思いつく。


「せめて手押し一輪車でもあれば、多少は楽なんだけど……」


土を運んだり、苗木を運んだりするのに、一輪車があればかなり違う。


地球ならホームセンターで普通に売っている。

値段だって、それほど高くない。


「でも……」


私は鞄を見る。


「この鞄の口の大きさじゃ、そんなもの入らないし」


一輪車はどう考えても無理だ。

分解すれば入るかもしれない。

でも、車輪まで含めて分解して持ってくるのも面倒だ。


「そもそも、こっちで一輪車を作れるようにしたほうがいいのかな?」


そう考えたところで、私は首を振る。


「いや、今は苗木が先」


一輪車のことまで考え始めたら、また別の仕事が増えてしまう。


「地道に背負子で運ぶしかないわね……」


私は背負子を背負う。苗木を載せる。

そして、果樹園予定地へ向かう。


「よいしょ……」


歩く。置く。戻る。また載せる。歩く。


「……これ、何回やれば終わるの?」


自分で始めたことなのに、ちょっと嫌になってきた。

でも――果樹園ができれば、将来的には果物が採れる。


今は小さな苗木だけど、数年後には大きな木になっているかもしれない。


「……そのための今だからね」


私はもう一度、苗木を背負う。


「よし。もう一往復!」


こうして、苗木運びは地道に続いていくのだった。


はぁ……どうにかやり切った!

結局、三日間掛かったけど、ようやく全部の苗木を植え終わった……。


「疲れたぁ……」


私はその場に座り込む。

両腕、両足は筋肉痛。

しゃがんだり立ったりを何度も繰り返したせいで、腰も痛い。


「くそ……!」


思わず悪態が出る。

最初は、


「苗木を植えるだけだから、そんなに大変じゃないでしょ」


なんて思っていた。完全に甘かった。

苗木を運んで穴を掘って、植えて土を戻して、水をやる。それを何十本も繰り返したのだ。

しかも、一日では終わらなかった。


「三日よ、三日……」


自分でもよくやったと思う。

私はゆっくり立ち上がり、植え終わった場所を見る。小さな苗木が、あちこちに並んでいる。


「これが全部、大きくなるのかな」


そう考えると、少しだけ疲れが吹き飛ぶ。


……いや。


「やっぱり疲れた」


今は無理。とにかく休みたい。


「ゆっくりお風呂に入りたい……」


そう呟いてから、私は固まった。


「…………」


お風呂。そういえば――


「そんなもん無いじゃん!」


この世界に来てから、一度も風呂に入っていない。いや、正確にはタオルで身体を拭くくらいだ。


「こっちに来てから、ずっとそれだったわ……」


最初は気にしていなかった。

生活するだけで精一杯だったし、井戸水が綺麗だったから、それで身体を拭けばいいと思っていた。


でも三日間、苗木を植え続けた今となっては――


「お風呂に入りたい……」


心の底からそう思う。温かいお湯に浸かって。


「あー……」


って言いたい。


「でも、お風呂がない……」


私は小屋を見る。簡単な台所。ベッド。机。井戸。必要最低限の物は揃っている。

でも、風呂はない。


「……作る?」


ふと、そんな考えが浮かんだ。


「いや、待って」


今の私にそんな体力はない。

それに、風呂を作るとなると、それなりの大きさになる。

この鞄に入れて持ってくるのも難しい。


「……まずは、簡単な方法を考えよう」


幸い、地球側とは繋がっている。

必要な物があれば、さとるに頼める。


「お風呂かぁ……」


私は空を見上げる。

苗木を植え終わった達成感はある。

でも、その代わりに身体はボロボロだ。


「明日は休みにしようかな……」


そう思ったところで――


「いや」


私は首を振る。


「明日も何かしら考えてそうだな、私」


自分で自分の性格が分かってきた。

こうして異世界生活は、少しずつ快適になっていく。


……たぶん。

まずは――


「お風呂、どうにかしよう」


今の私にとって、それが最優先事項だった。

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