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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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果樹園の始まり

今回仕分けした苗木を植えるとしますか。

土が合うか合わないかは、まだ分からない。

この世界の気候も、地球とは違う。

ちゃんと育ってくれるかは、実際に植えてみないと分からないわね。

ただ、一つだけ気をつけないといけないことがある。


「苗木同士の距離ね」


昨日、ネットでそれぞれの育て方を調べておいた。


苗木のうちは小さいから、ついつい近くに植えてしまいそうになる。でも、木は大きくなる。

大きくなってから、


「やっぱり狭いから植え替えよう!」


なんて、簡単にはいかないだろう。


「最初からちゃんと考えて植えないとね」


私は苗木を並べて、植える場所を決めていく。


「これはここ」


柿の苗木を植える。


「これは少し間隔を空けて……」


栗は少し広めに。


「こっちは日当たりが良い場所ね」


それぞれの特徴を思い出しながら、一つずつ植えていく。まだ苗木だから、作業そのものはそれほど大変ではない。


穴を掘って、苗木を入れて、土を戻す。


そして水をやる。それをひたすら繰り返す。


「……地味ね」


果樹園を作っていると言えば聞こえはいい。

でも、今やっていることは、ただひたすら穴を掘って苗木を植えているだけだ。


「まあ、数年後のためだしね」


そう考えながら、次の苗木を手に取る。

そのときだった。


「……ん?」


なんとなく気になったので、鑑定してみる。


「鑑定!」


【無花果の苗木】

【状態:やや弱っている】

【成長可能性:高】


「あら」


状態はあまり良くない。

けれど、成長可能性は高い。


「じゃあ、ちゃんと手を掛けてあげないとね」


私はその苗木を少し慎重に扱う。

根を傷めないように植えて、土をしっかり戻す。水も少し多めに与える。


「これで大丈夫かな?」


もう一度、鑑定してみる。


【無花果の苗木】

【状態:やや弱っている】

【成長可能性:高】


「……まあ、すぐには変わらないか」


そりゃそうだ。

植えた瞬間に元気になるなら苦労はない。


「頑張って育ってね」


苗木に声を掛けても仕方ないと思うけど、つい言ってしまう。そして、また次の苗木へ。


「これは……栗」


植える。


「こっちは柑橘」


植える。


「これは柿」


また植える。

気がつけば、かなりの数を植えていた。


「……何本植えたんだろう?」


私は腰を伸ばして、後ろを振り返る。


「…………」


思った以上に広い。

そこには、小さな苗木がずらっと並んでいる。

まだ木と呼ぶには頼りない大きさ。けれど、確かにそこには一本一本の苗木が植えられている。


「おお……」


昨日までは何もなかった場所なのに。

もう、果樹園の予定地らしく見えてきた。


「数年後には、ここが木でいっぱいになるのかな」


そう考えると、なんだか楽しみになってくる。

ただ――


「……思ったより広くなったわね」


植えているうちに、予定していた範囲を少しずつ広げてしまった。小屋からもかなり離れた。

畑からも離れている。

そして、気がつけば――


「村の側まで植える羽目になったな」


まあ、いいか。


村の近くなら、将来的に世話をしてもらうにも都合がいいかもしれない。


私一人で全部管理するのは、どう考えても無理だ。


今は苗木だからいい。


でも、大きくなれば剪定や収穫、水やりだって必要になる。


「その頃には、村の人たちにも協力してもらわないとね」


そんなことを考えていると――


「ちほさん」


後ろから声がした。

振り返ると、村の人が立っている。


「これは何をしているんだ?」


「ああ、これですか?」


私は植えたばかりの苗木を指差す。


「果物がなる木を植えてるんです」


「果物が?」


「はい」


「木に……果物がなるのか?」


「なりますよ」


そう答えると、相手は植えられた小さな苗木をじっと見る。


「これが?」


「そうです」


「…………」


どうやら、かなり不思議そうだ。

まあ、この世界では果樹そのものが珍しいのかもしれない。


特に私が持ってきた種類は、この辺りでは見たことがない可能性もある。


「何年かしたら、実がなると思います」


「何年も?」


「はい。すぐには無理ですね」


「なるほど……」


村人はもう一度、苗木を見る。

そして――


「それは、どんな味なんだ?」


「それは……」


私は少し考える。


「種類によって違いますよ」


「種類?」


「ええ。甘いものもありますし、酸っぱいものもあります」


「ほう……」


村人の目が少し変わった。

どうやら興味を持ったらしい。


「じゃあ、実がなったら食べられるのか?」


「もちろんです」


「そうか……」


小さな苗木を眺めながら、村人は笑った。


「楽しみだな」


「……ですね」


私も苗木を見る。

まだ何も実っていない。今はただの小さな木。

それでも――数年後には、ここに実がなる。

その光景を想像すると、今から少し楽しみだった。


そして私は思う。

竹も植えた。野菜も育てている。今度は果樹。


「少しずつ、この世界に地球の植物が増えてきたわね」


まだ始まったばかり。でも、こういう積み重ねが、いつか村の新しい産業にもなるのかもしれない。

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