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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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異世界で売れるものを探して

地球向けの商品については、供給できそうね。

シクトさんに小物作りをお願いすることになったし、村の女性たちにも作ってもらえる。

これなら、少しくらい注文が増えても対応できそうだ。


問題は――


「地球から、こっち向けの商品よね」


私は腕を組んだ。

種やらは、すでに村で撒いてもらっている。

水車や農具についても、こちらの人たちが工夫しながら作っている。

となると、次は何を持ってくるか。

しかも条件がある。


「こちらの世界でも再現可能な物」


これが結構重要だ。


地球から便利な物を持ってきて、それを使い続けるだけでは意味がない。


消耗品なら、なくなったらまた地球から持ってくる必要がある。


それでは、いつまで経ってもこの世界だけで生活が成り立たない。


「うーん……」


私は鞄の中を覗き込んだ。

見慣れた自分の店が見える。


棚。商品。段ボール。日用品。


いつもの店だ。


その光景を眺めながら、何か使えそうな物がないか探していく。


「あ」


目に入った。


「熊手」


これならいい。木と金属で作れる。

こちらの世界でも再現できそうだ。

その隣には――「竹箒」


これも使える。

さらに、


「竹ザル」


私は少し考える。


「竹……」


この世界では、まだ竹を見かけたことがない。

少なくとも、村の周辺では見ていない。

でも、この辺りで竹が育つなら、竹製品はかなり使えるはず。

箒もザルも、特別な技術が必要なわけではない。

竹があれば、こちらでも作れる可能性がある。


「うん。これは持って行っても問題なさそうね」


しかも――


「どれも鞄に通る」


これも重要。

大きな道具は、鞄の入口を通らない。

その点、熊手も竹箒も竹ザルも問題ない。

私は三つをこちら側へ持ってきた。

今までは、こういう物を見つけると、


「これ便利だから使ってみてください」


と、村の人に渡していた。

でも――


「今度は、買ってもらうと」


私は持ってきた道具を眺める。


「まあ、大した金額じゃないけど」


それでもいい。無料で渡すのではなく、ちゃんと対価をもらう。


こちらの世界のお金を使って、こちらの人から買ってもらう。


「これが商売ってことよね」


なんだか、少しだけ店をやっていた頃を思い出した。


商品を仕入れて。値段を決めて。売る。

当たり前のことだ。

でも、この世界では、それがまだ新しい。


「他には……」


また鞄の中を覗く。

地球の店の商品がずらりと並んでいる。


「あれもいいかも」


「こっちは……」


「いや、これはこちらじゃ作れないか」


一つずつ考えていく。

地球から持ってくる意味があるか。

こちらでも作れるか。

村の人たちが使えるか。


そして――売れるか。


「うーん……」


そのときだった。


「うわー!!」


突然、背後から大声が響いた。


「な、なに!?」


私はびっくりして振り返る。

そこには――


「さとる!?」


「姉さん!」


さとるがいた。

というか。いつからいたの?


「……あー。さとる居たの?」


「居たの? じゃないよ!」


さとるが頭を抱える。


「あのさー!」


「なに?」


「こっちから見るの、空間から生首状態だからやめろよ!」


「と言われましても」


私は鞄から顔を出したまま答える。


「こっちからすると普通に店を見てるだけなんだけど」


「こっちは怖いんだよ!」


「慣れてよ」


「慣れるか!」


さとるがため息をつく。


「突然、床の上に姉さんの頭だけ浮いてるんだぞ?」


「便利でしょ?」


「怖いんだよ!」


「まあいいじゃない」


「よくない!」


いつものやり取りだ。


「で、何してるのさ?」


さとるが呆れたように聞いてくる。


「いや。こっちに持ち込んでも問題なさそうな物を探してて……」


私は熊手、竹箒、竹ザルを指差した。


「地球から持ってきて、こちらで使ってもらうの」


「なるほど」


さとるが道具を見る。


「でも、なんで俺に言わないの?」


「?」


「探してるなら言ってよ!」


「なら、言ってよって言われても……」


私は少し考える。


「まあ、いいじゃない!」


「姉さん……」


さとるが深いため息をついた。


「はぁ……」


「そんなにため息つかなくても」


「いや、もういいよ」


そう言いながらも、さとるは店の商品を眺め始める。


「でも、こうやって探すなら、俺も手伝うよ」


「本当?」


「うん」


「じゃあ、お願い」


私は鞄の中から商品を一つずつ取り出していく。


「これは?」


「……こちらでは作れなさそう」


「じゃあ、これは?」


「使えるけど、再現が難しい」


「なるほど」


二人で商品を眺める。


「意外と条件厳しいね」


「そうなのよ」


地球から持ってくる。

便利。安い。こちらでも使える。

そして、できればこちらでも作れる。


「……中々の条件縛りだなぁ」


私は苦笑した。

でも――


「だからこそ、面白いのかもね」


今までなら、便利そうな物を持ってくればよかった。


これからは違う。

この世界で使われ、この世界で作れる物。そして、それをちゃんと商売にしていく。


「よし」


私は熊手を手に取った。


「まずは、これからね」


「売るの?」


「うん」


「いくらで?」


「それを今から考えるのよ」


「……姉さん、商売人の顔になってる」


「何それ?」


「いや、なんでもない」


さとるは苦笑した。

私は熊手、竹箒、竹ザルを並べる。


今度は――ただ渡すためじゃない。


売るための商品として。さて、いくらにしようかな。

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