小物作りを仕事にする
うむ。
一応、村長さんにも確認を取ってもらった。
そして――小物作りの専任を、一名置いてみることになった。
「誰にお願いするんですか?」
私が尋ねると、村長さんの口から出てきた名前は――
「シクトじゃ」
「シクトさん?」
「そうじゃ」
少し前から、村の女性たちが小物を作っているところを見ていた女の子らしい。
年齢は、おそらく十六歳くらい。
私も何度か作っているところを見かけたことがある。
確かに、手先が器用だった。作業の手も早い。
それだけじゃない。
「……センスがいいんですよね」
「そうなんじゃ」
村長さんも頷く。
どうやら、私だけがそう思っていたわけではないらしい。
村の女性たちからも、
「シクトならいいんじゃないか」
と推薦があったそうだ。
「それなら、お願いしてみましょうか」
「うむ。本人もやってみたいと言っておる」
こうして、私はシクトさんと話をすることになった。
「よろしくお願いします!」
目の前に座ったシクトさんが、少し緊張した様子で頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「はい!」
元気がいい。まだ若い。
けれど、こうして仕事としてやってみたいと言ってくれたことは嬉しい。
私はまず、一番大事なことを伝えることにした。
「最初に言っておきます」
「はい!」
「無理をしないこと」
「……はい?」
「無理をしないことです」
もう一度言う。
「畑仕事や家のことを犠牲にしてまで、作らなくていいです」
「でも……売れるんですよね?」
「売れます」
「もっと作ったら、もっと売れるんですよね?」
「たぶん」
「じゃあ――」
「だからこそです」
シクトさんが首を傾げる。
「売れるからって、無理をすると続きません」
「……」
「これは一日だけ頑張る仕事じゃなくて、これから続けていく仕事にしたいんです」
シクトさんは少し考えたあと、頷いた。
「はい!」
「無理をしない」
「はい!」
「疲れたら休む」
「はい!」
「畑が忙しい時期は、そっちを優先する」
「はい!」
「……本当に分かってます?」
「分かってます!」
元気よく返事が返ってきた。
大丈夫そうだ。
たぶん。
「それじゃあ、次は何を作るか決めましょう」
私はいくつかの商品を机の上に並べた。
巾着袋。小さな布袋。簡単なポーチ。
そして、これまで村の女性たちが作ってくれた小物。
「この中から、売れそうなものを増やしていきたいと思っています」
「はい」
「ただし――」
私はシクトさんを見る。
「デザインは、シクトさんに任せたいです」
「私に?」
「はい」
「でも、ちほさんが持ってきたものを参考にするんですよね?」
「参考にはします」
私は頷く。
「でも、そのまま真似しなくてもいいです」
「え?」
「シクトさんが『こうしたほうが可愛い』とか、『こっちのほうが使いやすい』と思ったら、どんどん変えてください」
「私が決めていいんですか?」
「もちろん」
少し驚いた顔をしている。
「だって、シクトさんのほうが、私よりこの村のことを知っているでしょう?」
「……」
「この村で手に入る材料も、村の人たちの好みも、作りやすさも。そういうのは私には分かりません」
シクトさんは、並べられた小物をじっと見つめる。
そして――
「じゃあ……」
小さな布袋を手に取った。
「ここを少し変えてもいいですか?」
「もちろん」
「紐をもう少し長くして……」
シクトさんは、袋を裏返した。
「それから、ここに小さな模様を入れたら……」
「いいですね」
「こっちの布を使ったほうが、村では作りやすいと思います」
「なるほど」
次々と意見が出てくる。
私は思わず笑ってしまった。
やっぱり、この子でよかったのかもしれない。
「シクトさん」
「はい?」
「全部、自分で考えてみてください」
「はい!」
「私からは、売れる場所を提供します」
「分かりました!」
今はそれでいい。シクトさんは楽しそうに小物を並べ替えている。
その姿を見ながら、私は思った。
これなら、もしかすると――私が商品を考えなくてもいいのかもしれない。
村には村の人たちにしか作れないものがある。
そして、それを考える人がいる。
「……なんだか、面白くなってきたわね」
「何か言いました?」
「ううん。何でもない」
こうして村で初めて――小物作りを専門の仕事にする人が、一人誕生した。
まだ一人だけ。
作る量だって、たいしたことはない。
でも、これが村にとって最初の一歩になるのかもしれない。
私は、シクトさんがこれからどんな商品を作るのか、少し楽しみになっていた。




