注文が増えた!
「姉さん、また売れたよ!」
朝、いつものように畑仕事をしていたちほのところへ、さとるから連絡が入った。
「本当!?」
思わず手を止める。
「やった!」
異世界の商品が地球で売れる。
それだけでも嬉しい。
村の人たちが作ったものが、地球の誰かに気に入ってもらえたのだ。
「それで、全部で何個売れたの?」
「今のところ十個」
「十個!?」
思わず声が大きくなる。
十個。
これまで一個、二個と売れていたものが、ついに十個まで増えた。
「結構売れてるじゃない!」
「しかも問い合わせも来てる」
「問い合わせ?」
「うん」
さとるが少し間を置いてから言う。
「もっとないんですか? って」
「……え?」
一瞬、ちほは固まった。
そして――
「やったぁ!」
思わず両手を上げる。
「もっと欲しいって言われたの!?」
「そういうこと」
「すごいじゃない!」
売れた。
しかも、もっと欲しいと言われた。
これは嬉しい。村の人たちに教えてあげれば、きっと喜ぶだろう。
そう思ったところでちほは、ふと気づいた。
「……待って」
「ん?」
「今、村から仕入れてる商品って……」
ちほは、手元にある商品の数を確認する。
巾着袋。小さな布袋。布製の小物。
革のキーホルダー。
どれも大量にあるわけではない。
むしろ――
「これ、全部合わせてもそんなにないわよ」
「だよね」
さとるも同じことを考えていたらしい。
「十個売れたら、かなり減る」
「しかも、もっと欲しいって言われてるんでしょ?」
「うん」
「……売れるのは嬉しい」
「うん」
「でも、商品がない」
「そういうこと」
ちほは腕を組んだ。
「うーん……」
需要はある。
欲しいと言ってくれる人もいる。
なのに、売るものがない。
これは商売としては、かなりもったいない。
「大量に作ってもらえばいいんじゃない?」
ちほが思いついたように言う。
しかし、すぐに別の問題が浮かんだ。
「……いや」
「どうしたの?」
「大量生産すると、材料が足りなくなるんじゃない?」
布を作るには糸がいる。
糸を作るには原料がいる。
革だって、無限にあるわけではない。
それに――
「そもそも、村の人たちって農家なのよね」
「そうだね」
「畑仕事をしながら作ってるんだから、いきなり何十個、何百個って言われても無理よね」
「まあ、そうなるよな」
「やっぱり、村に聞いてみるしかないか」
ちほは立ち上がった。
「ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」
◇
村へ向かう。
最近では、ちほが歩いていると、村の人たちから声を掛けられることも増えた。
「ちほさん、おはよう」
「おはようございます」
以前とは違う。
最初は「森の端に住んでいる変な商人」くらいだったのに、今ではすっかり村の一員のような扱いになっている。
そのまま、布製品を作っている女性たちのところへ向かった。
「こんにちは」
「おや、ちほさん」
「どうしたんだい?」
「実はですね……」
ちほは、商品が売れていることを説明した。
「これが結構売れてまして……」
「本当かい?」
「そんなに?」
女性たちは驚いた顔をする。
「うん。今のところ十個くらい売れていて、それに『もっとないんですか?』って問い合わせも来てるの」
「へぇ……」
「私たちが作ったものが?」
「そうなんです」
女性たちは顔を見合わせる。
そして――
「それなら、もっと作ろうか?」
一人が言った。
ちほは少し期待しながら尋ねる。
「本当に?」
「作れるよ」
「じゃあ、もう少し数を増やして――」
そこまで言ったところで、別の女性が苦笑した。
「作れるけどねぇ」
「うん?」
「畑仕事もあるからねぇ」
「ああ……」
「朝から畑に出て、帰ってきたら家のこともあるだろ?」
「そうそう」
「毎日これだけ作るのは無理だよ」
「なるほど……」
ちほは納得した。やっぱりそうだ。
作る技術がないわけではない。
材料が絶対に足りないわけでもない。
ただ――時間が足りない。
農作業をしながら、空いた時間で作っているのだから当然だった。
「やっぱりそうよね」
ちほは苦笑する。
「無理に作ってもらおうとは思ってないんです」
「そうかい?」
「うん。畑仕事を放り出してまで作るものじゃないですから」
それを聞いた女性たちが、少し安心したように笑った。
「でも、売れるっていうのは嬉しいねぇ」
「そうだね」
「自分たちで作ったものを欲しいって言ってくれるんだもんね」
「うん」
ちほも笑う。
そこまではいい。問題は、その先だ。
「じゃあ……」
ちほは少し考えてから尋ねた。
「どうしたらいいと思います?」
「え?」
「もっと欲しいって人がいるんです。でも、今の作り方だと、たくさん作るのは難しいですよね」
女性たちは顔を見合わせた。
「どうしたら……か」
「うーん」
「誰かが作る時間を増やせればいいんだけどねぇ」
「でも、畑があるからね。家の仕事もあるし」
ちほは黙って話を聞く。
そして、ふと思った。
「……作ることを仕事にする人がいたら?」
「仕事に?」
「うん」
「布を作ったり、袋を作ったりすることを?」
「そうです」
ちほは自分でも考えながら話す。
「今は畑仕事の合間に作ってますよね。でも、もし『作ることを仕事にしたい』って人がいたら、その人にお願いすることができるんじゃないかなって」
女性たちは黙って考える。
「畑をやらずに?」
「例えば、そういう人が何人かいてもいいんじゃないですか?」
「そんな人、いるかねぇ」
「分かりません」
ちほは首を振る。
「だから、聞いてみたらいいんじゃないかなって」
自分が決めることではない。
誰が作るのか。どれくらい作るのか。
どんな商品を作るのか。
それは村の人たちが決めることだ。
ちほはただ、売れる場所があることを伝えただけ。
「……なるほどねぇ」
一人の女性が呟いた。
「作ることを仕事にする、か」
「もし、それで暮らしていけるなら……」
別の女性も考え込む。
「やってみたい人がいるかもしれないね」
その言葉を聞いて、ちほは少しだけ嬉しくなった。
「じゃあ、一度村長さんにも相談してみましょうか」
「そうだね」
「私も一緒に行くよ」
話は、少しずつ動き始めた。
ただ商品を増やすのではない。
「作ることを仕事にする」
そんな新しい選択肢が、村に生まれようとしていた。ちほは女性たちと一緒に、村長のところへ向かう。
「さて……どうなるかな?」
まだ何も決まっていない。
でも――今まで農業しかなかった村に、新しい仕事が生まれるかもしれない。
ちほは、少しだけ楽しみになってきた。




