異世界のお金を借りる?
「姉さんー! 居るー?」
小屋で片付けをしていると、鞄の向こうから声が聞こえた。
「居るわよ! なーにー?」
「布製品だけど、売れてる!」
「そうなの?」
思わず手を止める。
「そそ」
「本当に?」
「うん。けっこう反応いいよ」
「へー……」
私は、村でもらった布製品を見る。
「どんな感じなの?」
「コメントだと、一点ものでいい感じとか」
「ほう」
「小道具にいいとか」
「小道具?」
「うん。あと、部屋に飾ると渋いとか」
「……」
私は巾着袋を手に取る。
「んーーー」
少し考える。
「色々な需要があるのね……」
私たちからすれば、ただの布製品。
でも、買う人からすれば――。
インテリアだったり。小物だったり。撮影に使う物だったり。そういう用途があるらしい。
「そうみたいだね」
「面白いわね」
「それでさ」
「うん?」
「これって、普通に仕入れれば?」
「……」
私は少し考える。
「確かに!」
売れるのであれば、仕入れて販売した方がいい。村の人たちにとっても収入になる。
「ちゃんと仕入れれば、村の仕事にもなるわね」
「そうそう」
「でも……」
そこで問題に気づく。
「こっちから何を持っていけば……」
今までは物々交換だった。
マッチ。種。洗濯板。木製の洗濯ばさみ。
こちらにある物を持っていき、その代わりに村の物をもらってきた。
でも、これから規模を大きくするなら――。
「うーむ」
私は腕を組む。
「そっちの世界のお金が手に入れば、普通に買えるんだけどね」
「そうだよね」
「でも……ほとんど物々交換なんだよね」
「そうなのよ」
村でお金を見せてもらったことはある。
鉄。銅。銀。金。白金。
でも、私自身はほとんど持っていない。
「お金がないと、商売をするにも限界があるわね」
「だったらさ」
さとるの声が少し弾む。
「思い切って、そっちの世界からお金を借りれば?」
「……」
「借りる!?」
「そそ」
「いやいやいや!」
思わず声が大きくなる。
「異世界のお金を借りるって、どういうことよ!」
「そのまんまだけど?」
「そんな仕組みあるのかしら?」
「さー?」
「さーって……」
私は頭を抱える。
「そもそも誰から借りるのよ?」
「村とか?銀行じゃないの?」
「銀行があるかどうかも分からないじゃん」
「……」
確かに。そもそも私は、この世界の金融事情を何も知らない。
「借金するにしても、金利とか担保とか……」
「姉さん、異世界でそこまで考えてるの?」
「商売するなら必要でしょ!」
「まあ、それはそうだけど」
二人で黙り込む。
「……」
「……」
「でも」
さとるが口を開く。
「仕入れて売るなら、物々交換よりお金の方が楽じゃない?」
「それは確かに……」
仕入れ値を決める。商品を仕入れる。
地球で売る。売上から仕入れ代を払う。
利益が出れば、また仕入れる。
普通の商売なら当たり前の流れだ。
「村の人たちにとっても、その方が分かりやすいかも」
「でしょ?」
「……」
私は少し考える。
「一度、村長さんに相談してみるか」
「お金を貸してくれませんかって?」
「いきなりそれは怪しすぎるでしょ!」
「じゃあ、どうするの?」
「……」
「……」
「まずは、この世界の商売の仕組みを聞く」
「なるほど」
「それから考える」
「了解!」
私は頷く。
今までは、ただ物を交換していただけ。
でもこれからは――。
「ちゃんと商売をする」
そのためには、この世界のお金についても、もっと知らなければならない。
「……」
異世界で商売を始める。
思っていた以上に、本格的になってきたわね。
「さて……」
私は小屋の外を見る。
「明日、村長さんに聞いてみようかな」
今度は、物ではなく――お金の話だ。




