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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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村で生まれた新しい商品

午前中は、いつものように小屋の周りで家庭菜園。

芽が出てきた野菜を確認したり、水をあげたり。


「うん。順調そうね」


最初は何もなかった畑も、少しずつ緑が増えてきた。異世界に来てから始めた家庭菜園。


これも、すっかり日課になっている。


「さて……」


時計を見る。


「午後からは村へ行こうかな」


最近は、村へ行くのもすっかり日常になった。

最初の頃は、村へ入るだけでも緊張していたのに。今では、顔見知りも増えている。


「じゃあ、行きますか!」


◇


村に着くと、いつものように中を歩いていく。

すると――


「……あれ?」


見慣れない物が目に入った。


「これ……」


棚の上に並べられているのは、布で作られた小物だった。


「巾着袋?」


小さな袋のような物。

紐を引っ張れば口が閉じる。

その隣には――


「これ、財布入れみたいな物?」


さらに、小さな鞄のような物まである。


「……」


私は思わず立ち止まった。

以前、私が持ってきた織り機。

そこから作られた布。

そして、その布を使って――


「この村で、商品が生まれてる……」


最初は私が、


「こんな物が作れますよ」


と、きっかけを持ってきただけだった。

それが今では。


「村の人たちが自分たちで考えてる」


なんだか嬉しくなってくる。


「いい流れね……」


水車もそうだった。

農具もそう。紡ぎ機もそう。

私が持ってきたものを、そのまま真似するだけじゃない。

村の人たちが、自分たちに合うように変えている。


そして今度は――


「自分たちで新しい商品まで作ってる」


これは大きな変化だと思う。

そんなことを考えていると――


「あら、ちほさん」


「こんにちは!」


村の女性たちから声を掛けられた。


「これ、見てくれたかい?」


「はい! すごいですね!」


「そうかい?」


「こういう物まで作れるようになったんですね!」


「おかげさまでね」


「いえいえ。私はきっかけを持ってきただけで……」


すると、女性の一人が笑った。


「それでも、世話になったからね」


「え?」


「これ、あげるわ」


そう言って、小さな巾着袋を渡される。


「えっ? いいんですか?」


「もちろん」


「ありがとうございます!」


嬉しい。こういう手作りの物を貰うなんて、なんだか久しぶりだ。


「じゃあ、これも」


「え?」


別の女性からも小さな袋を渡される。


「これも持っていきな」


「いやいや! 一つで十分ですよ!」


「遠慮するんじゃないよ」


「でも……」


さらに。


「これも」


「これも持っていって」


「えっ?」


気がつけば、私の両手にはいくつもの布製品が。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「まだあるよ?」


「まだあるんですか!?」


思わず笑ってしまう。


「いや、本当にそんなに貰っても……」


「いいんだよ」


「そうそう」


「私たちが作れるようになったのも、ちほさんのおかげなんだから」


「……」


その言葉に、少しだけ胸が熱くなった。

私は別に、大したことをしたつもりはない。


水車の模型を持ってきた。農具の資料を持ってきた。紡ぎ機や織り機を持ってきた。

ただ、それだけ。

実際に作ったのは、この村の人たちだ。


「……ありがとうございます」


私は、改めて頭を下げた。


「大事に使いますね」


「使ってくれれば、それでいいよ」


「はい!」


もらった袋を眺める。

最初に見た時よりも、ずっと身近に感じる。


これは――この村の人たちが作った商品だ。


「……」


私はふと思った。

もしかすると。私が持ってくる物を増やすことよりも――


「こうやって、この村で作れる物を増やす方が大事なのかも」


水車。農具。糸。布。そして布製品。

一つずつだけど、村の中で新しい仕事が生まれている。


「なんか……」


私は自然と笑っていた。


「いい感じになってきたわね」


私が何かを与えるだけじゃない。

この村自身が、少しずつ変わり始めている。

それが、何より嬉しかった。

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