初めての村産布
村へ行くと――。
「ちほさん、ちょっと見てくれ!」
いつものように職人さんに呼ばれた。
「どうしました?」
「糸が出来たぞ」
「本当ですか!?」
紡ぎ機が完成してから、村では少しずつ糸の生産が始まっていた。
最初は試しながらだったけど、どうにか安定して糸を作れるようになったらしい。
そして――。
「次は布じゃ」
「もう?」
「せっかく糸が出来たんじゃ。次に進まんとな」
なるほど。
紡いだ糸を使って、今度は布を作る。
織り機の方も、職人さんたちが試行錯誤しながら形にしていた。
「じゃあ、見せてもらっても?」
「ああ」
案内された先には、何人かの女性がいた。
どうやら細かい作業が得意な人たちが、布を織っているらしい。
「こういうのは、手先が器用な者に任せた方が早いからの」
「確かに」
織り機には糸が張られている。
そこへ横から糸を通していく。
「……」
一見すると単純そうに見える。
でも、実際にやってみれば細かい作業の連続だ。
「大変そう……」
「まだ簡単な物しか作れんがな」
それでも――しばらく待っていると。
「出来ましたよ」
「おお!」
手渡されたのは、タオルくらいの大きさの布だった。
「これが……」
私は両手で広げる。
「布……」
まだ目は粗い。触ってみる。
「……」
ゴワゴワしている。
現代のタオルとは、比べるまでもない。
でも――。
「ちゃんと布になってる」
糸だったものが、布になっている。
「すごい……」
なんだか感動してしまった。
「まだまだ改良の余地はあるがの」
「いや、十分ですよ!」
私は布を一枚、受け取った。
「これ、もらってもいいですか?」
「もちろんじゃ」
「ありがとうございます!」
私は大事に抱えて、小屋へ戻った。
「さとるー!」
「はーい!」
「これ見て!」
私は布を手渡す。
「へー」
さとるが広げる。
「もう完成したんだ」
「そうそう!」
「……」
さとるが布を触る。
「でも流石に……」
「何?」
「タオルって言うには、ゴアゴアだね」
「まあ……」
私は苦笑する。
「その辺は流石にね」
現代のタオルを知っている私たちからすると、これはタオルというより、粗い布だ。
でも――この世界では、これが最初の一歩。
「糸から布を作れるようになっただけでも、大きいんじゃない?」
「そうだね」
「しかも、村で作れる」
「うん」
「だったら……」
私は布を眺める。
「試しにネットで売ってみる?」
「売れるかしら?」
「んー……」
さとるが腕を組む。
「分からん」
「だよね」
現代の人から見れば、ゴワゴワした手作りの布。わざわざ買いたいと思う人がいるのか。
それとも――。
「逆に、こういうのが好きな人もいるかも?」
「手作りとか?」
「そうそう」
それに、普通のタオルとは違う。
この世界で作られた布。
もちろん、そんなことをネットの商品説明に書くわけにはいかないけど。
「まあ、試してみないと分からないか」
「じゃあ、出してみる?」
「お願い!」
「了解」
さとるが布を持って、パソコンの方へ向かう。
「写真撮るよー」
「お願い」
私は布を広げる。
「もうちょっと綺麗に広げて」
「はいはい」
パシャッ。
「これでいいかな?」
「うん」
さとるがネットに出品する。
「値段は?」
「……」
私は少し考える。
「とりあえず、安めで」
「了解」
入力して――。
「出品完了」
「おお……」
私は画面を見る。
「売れるかな?」
「さあ?」
「さあって……」
「こればっかりは、買う人次第だから」
「まあ、そうよね」
私は改めて布を見る。
村の人たちが作った、最初の布。
まだまだ粗い。まだまだ改良できる。
それでも――。
「一枚の布になったんだよね」
「うん」
「……なんか嬉しいな」
私は笑った。
「さて、どうなるかな?」
画面の向こうにいる、まだ顔も知らない誰か。
その人が、この布を見て何を思うのか。
「売れたら面白いんだけどなぁ」
私は少しだけ期待しながら、画面を眺め続けた。




