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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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少しだけ、村の未来を押してみる

「よし!」


私は、今までのことを整理してみる。

まず、紡ぎ機。

これが完成すれば、村で糸を作れるようになる。

そして、その次に織り機。

これも完成すれば――。


「糸から布が作れるようになる」


「うんうん!」


さとるも頷く。


「これって結構すごくない?」


「かなりすごいと思うよ」


私は改めて考える。


今まで、この村では布をどうやって手に入れていたんだろう。


もちろん何らかの方法で作っていたのだろうけど、少なくとも私が見た限りでは、大量に作っている様子はない。


もし、この村で糸を作れるようになって。

さらに布まで作れるようになったら。


「自給力が上がるよね」


「自給力?」


「うん。今まで外から買っていたものを、自分たちで作れるようになるってこと」


「なるほど」


糸を作る。布を作る。


それだけでも、村の中でできることが増える。

そして余った布を他の村へ売ることだってできるかもしれない。


「そうなったら、村も豊かになるのかな?」


「どうだろうね」


「そこは分からないかー」


「でも、作れるものが増えて、売れるものも増えたら、豊かになる可能性は高そう」


「だよね!」


私は少し嬉しくなる。

水車の時もそうだった。

私が水車を持ってきた。

でも、水車を実際に作ったのは村の職人さんたち。


農具だってそう。革細工だってそう。

私が全部作ったわけじゃない。


「私がやってるのって……」


少し考える。


「ほんのちょっと、押してるだけなのかな?」


「押す?」


「うん」


私は指で、軽く前へ押すような仕草をする。


「村の人たちが自分たちで頑張って進んでるところを、私はちょっとだけ後ろから押してる感じ」


「それなら、いいんじゃない?」


「うんうん!」


私自身が何でも作れるわけじゃない。

農業のことだって、まだまだ分からない。

水車だって自分では作れない。

紡ぎ機も作れない。織り機だって作れない。


でも。


「こういう物があります!こういう方法があります!こんな道具があります」


それを伝えることならできる。

そして村の人たちが、


「じゃあ作ってみよう」


と言ってくれる。


「それで、村が少しずつ変わっていけばいいかな」


「いいと思うよ」


さとるが笑う。


「お姉ちゃんが全部やったら、村の人たち何もすることなくなるし」


「それはそうね」


私は笑う。


そうなのだ。


私が何でもやってしまったら、この村は私がいないと何もできない村になってしまう。


それでは意味がない。


村の人たちが自分たちで作って、自分たちで改良して、自分たちで売っていく。


その方がずっといい。


「うん」


私は頷く。


「この流れが出来ればいいかな」


水車ができる。農具が改良される。

革細工が売れる。糸が作れるようになる。

布が作れるようになる。

そして、それらを村の人たちが自分たちで発展させていく。


「私は少し押すだけ」


「うんうん!」


今日も村では、誰かが働いている。


畑を耕している人。木を加工している人。

革を加工している人。


そして今は、紡ぎ機や織り機を作ろうとしている人たちもいる。


「……なんか、楽しくなってきたなぁ」


最初は、ただ生きていくためだった。

次に、村の役に立ちたいと思った。


そして今は――。


「この村がどう変わっていくのか、見てみたい」


そんな気持ちが強くなっていた。


まだ何も決まっていない。

何が成功するかも分からない。


それでも。少しずつ。ほんの少しずつ。

この村の未来を押していこう。


「さて……次は何を押そうかな?」


「お姉ちゃん、押すものじゃないからね?」


「分かってるって」


私は笑いながら、パソコンを開いた。


そして今日もまた、次に役立ちそうなものを探し始めるのだった。

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