異世界の畑で、芽を待つ
私は村長さんから渡した種を持って、村の畑へ向かった。
「ちほさんからの種?」
畑の一角で、村人たちが種の袋を眺めている。
「そうじゃ。ここで育つか分からんけど、くれたのじゃ。試しに植えてくれと」
「ちほさんのなら、試しにやってみっか」
「そうだな」
ありがたい。でも――
「ただ、全部を大規模に植えるのは、ちょっと待ってくださいとの事だ」
「へ?」
「いきなり全部植えて、もし育たなかったら困りますよね?って事じゃ」
「確かにそうだな」
「それなら……」
畑の一角を見る。
「ここを試験用にするか?」
「試験用?」
「はい」
「それぞれ違う種を少しずつ植えて、どれが育つのか見てみるか」
「なるほど」
村長さんも頷く。
「それぞれ育ち方を記録しておけば、どの作物がこの土地に合うのか分かるかもしれん」
「そうするか!」
村人は、地面を指差す。
「ここに種を植えて……」
「こちらには別の種を」
「ふむふむ」
「そして、育ったものと育たなかったものを記録する。それなら、次に植える時の参考にもなるな」
「うむ」
話がまとまったところで、さっそく種を植えていく。
一種類。また一種類。
小さな試験畑に、地球から持ってきた種が並んでいく。
「……」
こうして見ると、普通の畑と変わらない。
でも――野菜になるのか。
「ちゃんと育ってくれるかな?」
「そればかりは、待つしかないの」
村長さんが笑う。
「そうだな」
「じゃあ、しばらく様子をみるか」
「うむ」
種を植えたからといって、すぐに結果が出るわけじゃない。
水をやって。日当たりを見て。雑草を取って。
あとは――芽が出るのを待つ。
それだけ。
「……」
村人は、試験畑を眺める。
「待つ時間も必要か」
「そういうものじゃ」
「なるほど……」
小さな土の盛り上がりを見る。
まだ、何もない。
でも、この下には確かに種がある。
「どんな芽が出てくるのかな」
「それを楽しみに待つとしよう」
「はい!」
村人は、畑を後にする。
「さて……」
芽が出るまで、しばらく時間が掛かりそうだ。
だったら――急ぐ必要はない。
この村で暮らし始めて、少しずつ分かってきた。一度に全部を変える必要なんてない。
小さなことを一つずつ。
「ゆっくりやっていこう」
試験畑では――まだ誰にも見えない小さな種が、静かに芽吹く時を待っていた。




