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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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異世界に広がる新しい種

私は、色々な種類の種を鞄に詰め込んで村へ向かった。


今回ばかりは、先に村長さんへ話を通しておいた方がいいだろう。


地球の野菜を持ち込むのだから、勝手に村の畑へ撒くのもどうかと思う。


「こんにちは!」


「おお、ちほさん。なんや?」


「新しい野菜の種が手に入ったので、持ってきました」


私は鞄から種の袋を取り出し、村長さんへ見せる。


「ほう……」


村長さんが一つずつ眺める。


「これは……野菜の種か?」


「はい!」


「随分と種類があるの」


「ええ。私のいたところでは、色々な野菜が作られていましたから」


もちろん、本当のことは言えない。

地球から持ってきた――なんて説明できるわけもない。


「ほう。これはありがたいな」


「ただ……」


私は少しだけ注意を付け加える。


「ここの土地と合うかは分かりません」


「ふむ?」


「私の知っている土地とは、気候も土も違いますから」


「なるほどの」


「なので、あまり期待しないでくださいね」


私がそう言うと、村長さんは少し考えてから頷いた。


「それならば……」


「はい?」


「試しに撒いてみるか」


「!」


「育つかどうかは、育ててみなければ分からん」


「そうですね!」


「それに、新しい作物が育つなら、それだけ選択肢も増える」


「その通りです!」


思わず嬉しくなる。


「そうしてくれると助かります!」


「任せておけ」


村長さんは種の袋を受け取り、もう一度眺める。


「しかし……」


「?」


「本当に、お主は面白い物を次から次へと持ってくるの」


「私も、色々と試してみたいだけですよ」


「ほっほっほ。まあ、それもお主らしいの」


水車。農具。紡ぎ車。


そして今度は、新しい野菜。

一つずつだけど、この村に新しいものが増えていく。


「……」


私は畑の方を見る。

もし、この種がちゃんと育ったら。

この村で作れる野菜が増える。

それを食べてもいい。売ってもいい。


そして、もしかしたら――


「また新しい商品が作れるかもしれない」


そんなことを考えると、自然と期待が膨らんでくる。


「さて……」


まずは芽が出るかどうか。

異世界の畑で、地球の野菜が育つのか。

これは私自身も気になる。


「楽しみですね」


「うむ」


村長さんも笑った。


異世界の畑に植えられた、地球の種。

その小さな種が、この村にどんな変化をもたらすのか。


それは――芽が出てからのお楽しみだ。


「それと。紡ぎ車と言ったかな?」


「はい」


村長さんが、先ほど渡した種の袋を眺めながら尋ねる。


「完成して、試しに使っておる」


「本当ですか!?」


思わず身を乗り出す。


「うむ。まだまだ改良は必要じゃが……」


村長さんは、少し嬉しそうに笑った。


「近いうちに、糸が出来るぞ」


「本当ですか!?」


今度こそ声が大きくなる。


「はい!」


「うむ!それは楽しみですね!」


紡ぎ車が完成した。それだけでも嬉しい。

でも、まだこれは始まりだ。


糸が作れるようになれば――その先には布がある。


布が作れるようになれば、村で作れる物も一気に増える。


「……」


革製のキーホルダー。


そして、今度は布製の小物。


もしかしたら、村の女性たちの新しい仕事になるかもしれない。


「これは、期待して待っててくれ」


「はい!」


私は大きく頷いた。


「楽しみにしています!」


水車の時もそうだった。

最初は小さな模型だった。

それが今では、隣村から注文が来るほどになった。


そして今度は――紡ぎ車か……これもまた、この村に新しい産業を生み出すことになるかもしれない。


「……」


なんだか、どんどん面白くなってきた。


種も。紡ぎ車も。まだ結果は分からない。

でも――


「やってみなければ、分かりませんよね!」


「ほっほっほ。そうじゃな」


村長さんと笑い合う。

異世界に来てから始めた小さな挑戦。

それが少しずつ、村の未来を変え始めていた。


村長さんとの話を終えて、小屋へ戻る道を歩く。


「……」


そういえば。地球の生物は、こっちへ持ってきてもいい。

神様からも、ちゃんと了解を取った。


「種は思いついたけど……」


他には何があるかしら?

野菜だけじゃない。果物とか、花とか。


「……」


でも、鞄の入口には大きさの制限がある。

頭や片手は入る。

でも、それ以上は無理。

大きな物を持ち込むのは難しい。


「となると……」


持ってこられる物は、必然的に限られてくる。


「うーん……」


焦って考えても仕方がない。


「一度、小屋に戻ってゆっくり考えるか」


そうしよう。


今までだって、思いついたことを一つずつ試してきた。種だって、今回思いついたばかりだ。


「他にも何かあるかもしれないしね」


私は小屋へ向かって歩き出す。

異世界に持ち込める、地球の物。


まだまだ探せば――何か面白い物が見つかるかもしれない。

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