初めての見積もりと隣村への出張
村長さんとは、その後も何度も打ち合わせを繰り返した。
「ここは、もう少し掛かるんじゃないか?」
「そうですね。じゃあ、この分を足して……」
「こちらは逆に減らせそうじゃな」
「それなら、こっちは少し安くできますね」
何度も数字を書き直して――
「……これでどうでしょう?」
「うむ。これなら良かろう」
ようやく、水車小屋の建設予定価格が決まった。
「ふぅ……」
疲れた。
商店をやっていた時も値段を決めることはあったけど、まさか異世界で水車小屋の見積もりを作ることになるとは。
「しかし……」
私は書いた数字を見る。
「こっちの単位、いまいち分からないのよね」
鉄銭や銅銭。銀貨。金貨。
聞けば聞くほど、日本円とは全然違う。
でも、村長さんと話しているうちに、一つだけ分かったことがある。
一人が一日働いて、だいたい日本円なら五千円くらい……こちらの価格だと銀貨一枚。
「うむ。おおよそじゃがな」
「なるほど」
もちろん正確に五千円というわけではない。
でも、私にとっては大きな目安だ。
これなら――人件費が計算できますね。
何人で何日働くのか。
そこへ材料費を足す。
運搬費なども考える。
「これなら、全体の価格も出せそう」
ようやく商売らしくなってきた。
その一方で――水車小屋の部品作りも、順調に進んでいた。
「おお……」
村の一角に、加工された木材が並んでいる。
水車。軸。小屋の柱。その他の部品。
最初に作った時とは比べものにならない。
「もう、こんなにできたんですね」
「何機も作っておるからな」
職人さんが笑う。
「慣れたもんだ」
そして――
「よし!」
いよいよ出発の日。
八人の職人さんたちが、部品を積んだ手引き台車を引いている。
「これを隣村まで運ぶんですね」
「そうじゃ」
「気をつけてくださいね!」
「任せておけ」
今回は、現地で組み立てるだけ。
予定では十日ほどで完成するらしい。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
「頑張ってください!」
私は手を振る。
八人の職人さんたちが、台車を引きながら村を出ていく。
「……」
なんだか不思議な光景だ。
自分がきっかけになって作られた水車が――今度は、別の村へ向かっている。
「ちゃんと役に立つといいな」
私は職人さんたちの背中が見えなくなるまで見送った。
◇
「さて……」
村長さんを見る。
「もう一つありますね」
「うむ」
農具だ。水車だけではない。
私が持ってきた資料を元に、村では新しい農具も作り始めている。
「こちらも、他の村へ売るんですよね?」
「そのつもりじゃ」
「じゃあ、値段を決めないと」
再び、机の上に紙を広げる。
「この農具は、材料がこれくらい。作るのに何日かかる?職人さんは何人?」
「一つ作るのに、このくらいじゃな」
「じゃあ、人件費を入れて……」
また計算。また相談。そして――
「これくらいなら、どうでしょう?」
「うむ」
村長さんが頷く。
「高すぎることもなさそうじゃ」
「よかった」
農具は水車小屋より小さい。
だから、一つずつ売ることもできる。
「これなら、隣村だけじゃなくて、その先の村にも売れそうですね」
「そうじゃな」
「作れば作るほど、村にも仕事が増えます」
「うむ」
村長さんは、少し嬉しそうに笑った。
「お主が最初に持ってきた小さな模型が――」
「はい?」
「まさか、ここまで話を大きくするとはな」
「……」
私も笑う。
「私もびっくりしてます」
最初は、ただの工作キットだった。
それを村長さんに見せた。
職人さんたちが水車を作った。
それが評判になって、隣村から注文が来た。
そして今――村で水車を作って、他の村へ売る。そんな商売が始まろうとしている。
「……」
私は村の景色を見る。
以前と同じ畑。同じ家。同じ道。
でも――少しずつ、何かが変わり始めている。
「次は何を売れるようになるかな?」
私がそう呟くと、村長さんが笑った。
「それを考えるのは、お主の仕事じゃろ?」
「ですよねー」
異世界商店の仕事は――どうやら、これからが本番らしい。




