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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者:


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水車の値段を決めよう

ある日のこと。


「ちほさん、ちょっと来てもらえるかの?」


村長さんから呼ばれて、私は村へ来ていた。


「どうしました?」


「実はな……」


村長さんによると、どうやら隣村の村長さんが、水車小屋に興味を持ったらしい。


「もう噂になってるんですか?」


「うむ。うちの水車を見た者が、隣村で話したようじゃ」


「なるほど」


水車が実際に動いている。

それを見れば、欲しくなる村があっても不思議ではない。


「それで?」


「いくらで売ったらいいか、という話になってな」


「あー……」


私は腕を組む。

そこは確かに問題だ。


「水車小屋って、いくらくらいなんでしょう?」


「それが分からんのじゃ」


「ですよね……」


私も分からない。

そもそも、この世界の木材がいくらなのか。

職人さんの日当はいくらなのか。

運搬費は?土地代は?何も知らない。


「……」


商売をすると言い出したのに、肝心の値段が分からない。

これはまずい。


「じゃあ、まず原価を出してみましょうか」


「原価?」


「はい」


私は説明する。


「前に水車小屋を建てた時の日数」


「うむ」


「それと、作業した人の人数」


「なるほど」


「使った木材の量。それ以外の材料」


「ふむ」


「そこから、だいたいどれくらい掛かったのか計算します」


「ほう」


つまり――原価計算。


これなら、売値を決める基準になる。


「……」


ただ。


「私、ここの物価も人件費も分からないんですよね」


「そこは、わしらで考えるしかないの」


「ですよね」


村長さんと一緒に、あれこれ話し合う。


「職人一人が一日働くなら、このくらいではないか?」


「なるほど」


「木材は、このくらいじゃ」


「じゃあ、これを合わせて……」


紙に数字を書いていく。

正確な金額ではない。

でも、何もないよりはずっといい。


「これくらいが目安になりそうですね」


「うむ」


そして――


「ならば」


村長さんが言う。


「なるべく安くできる方法も考えた方がいいな」


「そうですね」


隣村が買ってくれるとしても、高すぎれば意味がない。

そこで私は一つ提案する。


「この村で部品を作ってしまうのはどうですか?」


「部品?」


「はい」


水車小屋を現地で一から作るのではない。

この村で、ある程度まで木材を加工する。


水車の部品。軸。水車本体。

その他の必要な木材。


「それを隣村へ運んで、向こうで組み立てる」


「なるほど」


「その方が、向こうでの作業日数も減ります」


「確かに」


そして――


「この村では、もう何機も水車を作っていますよね?」


「うむ」


最初の一機は大変だった。

でも今は違う。


「組み立てなら、もう慣れたものです」


「そうじゃな」


職人さんたちも、水車の仕組みを理解している。

一号機を作った時のように、何度も失敗する必要もない。


「なら、最初から全部を隣村で作るより……ここで部品を作っておく」


「はい」


「そして運んで、組み立てるだけ。そうすれば、安くできる」


村長さんが頷く。


「それなら、隣村にも売りやすいな」


「ですよね」


私は紙に簡単な流れを書いてみる。

木材を用意する。

この村で加工する。

部品として運ぶ。

隣村で組み立てる。


「うん」


「どうじゃ?」


「良いと思います」


私は頷く。

最初の水車を作った時は、一つ作るだけで大変だった。


でも今は――作り方を知っている。

必要な材料も分かる。作業する人もいる。

経験もある。


「こうやって、だんだん作るのが簡単になっていくんですね」


「それが職人というものじゃろうな」


「……」


確かに。最初は一から作る。

失敗する。直す。そして、経験が蓄積される。

それが次の仕事に活かされる。


「なんだか、本当の商売っぽくなってきましたね」


「ほっほっほ」


村長さんが笑う。


「最初から商売のつもりだったのではないのか?」


「そうなんですけど……」


私は苦笑する。


「最初は、ただ水車が便利そうだから作ってみよう、くらいだったので」


「それが今では隣村から注文が来る」


「……」


そう考えると、ちょっと凄い。


「じゃあ、まずは見積もりを作ってみましょう」


「うむ」


水車一号機は、この村のために作った。


出荷型二号機は――この村の外へ売るために作る。


そして私はまだ知らなかった。

この一台の水車をきっかけに、村の職人たちの仕事が、少しずつ増えていくことを。

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