異世界で売る
次の日。
私はまた村へ向かった。
目的は――
「キーホルダー、できてますかー?」
「出来てるわよー」
「ありがとうございます!」
昨日交換した分だけではなく、新しく作ってくれた物もある。
私は一つずつ受け取っていく。
「これも」
「はい!」
「こっちも」
「ありがとうございます!」
気がつけば、かなりの数になっていた。
「こんなに作ってくれたんですね」
「革の切れ端だからねぇ」
「それでも、助かります」
私はキーホルダーをリュックへ入れる。
「じゃあ、またお願いします」
「こっちも頼むよ」
「はい!」
◇
小屋へ戻る。
「……」
さとるは実家にいなかった。
どこかへ出掛けているらしい。
「まあ、いいか」
私はリュックからキーホルダーを出す。
テーブルの上へ並べていく。
「一個……二個……」
「結構あるわね」
数十個。
「……」
これだけあれば、しばらくは売れるだろう。
「さとるが気づいたら、またネットで売り出すでしょ」
私はキーホルダーを眺める。
一つ一つ形が違う。
同じ物は一つとしてない。
「……」
こういうの、地球では逆に魅力になるかもしれない。
手作り。一点物。異世界の革。
「……」
なんだか面白くなってきた。
でも――
「物々交換って、思ったより面倒ね」
村へ行く。商品を見せる。相手が欲しいか確認する。何と交換するか決める。そして、また別の商品を探す。
「それに……」
一番難しいのが、
「価値観が違う」
ということ。
地球なら、だいたいの値段が分かる。
でも、この世界では分からない。
「このキーホルダー一個と、洗濯ばさみ何個が釣り合うの?」
「……」
分からない。
相手にとって価値のある物なら高く感じるし、必要ない物なら安く感じる。
「商売って難しいわね」
私は腕を組む。
「……」
だったら。
「ここの商人と取引する?」
村の商人。
この世界の相場を知っている人なら、私よりずっと上手く取引できる。
でも――
「いや」
私は首を振る。
「違うな」
私が直接商人と取引するより、
「村の人を通して取引する」
その方がいい。村の人が作った物。
村の人が売る。そして、その利益が村に残る。
「そうすれば、村にも何かしらプラスになるだろうし」
水車や農具と同じ。
私だけが儲かる形にはしたくない。
「そっちの方がいいと思う」
私はキーホルダーを一つ手に取る。
「……」
そして、ふと思う。
「そうだ」
農具もそうだ。水車もそう。この村には、作れる人がいる。木工ができる人。革を加工できる人。農具を作れる人。
「ここで作った物を売るってもらうのは、どう?」
私は一人で呟く。地球の知識を異世界で作り、他にも売ってもらう。異世界の物も地球で売る。
「……」
これなら、私が商品を持ち込む必要もない。
村の人たちが作った物を、地球へ持ってくる。
そして売る。
売れたお金を――村に還元する。
そうすれば。
村はもっと材料を買える。
職人も増える。作れる物も増える。
「……」
私は立ち上がる。
「生産拠点みたいにするのは?」
小さな村。
でも、ここでしか作れない物がある。
地球にはない素材。異世界にはない技術。
そして、この世界の職人たち。
「……」
考えれば考えるほど、面白くなってくる。
最初は、ただの暇つぶしだった。
異世界でのスローライフ。
村の人たちに便利な物を教える。
それだけだったはずなのに。
「まさか……」
私はテーブルいっぱいのキーホルダーを見る。
「異世界と地球を繋ぐ商売になる?」
まだ何も決まっていない。
でも――これが上手くいけば。
村の人たちにも仕事が生まれる。
私は商品を手に入れられる。
そして地球の誰かが、その商品を買ってくれる。
「……」
なんだか、ワクワクしてきた。
ただし――そのためには、まず村の人たちに話さなければならない。
「村長さんに相談してみよう」
私は次に村へ行く予定を考え始めた。
異世界での商売が――少しずつ、本当の商売になり始めていた。




