異世界で洗濯ばさみを売ってみる
「さとるー! いるー?」
鞄の向こうへ声を掛ける。
「いるよー! なに?」
「ちょっと、これ見てよ!」
私は手元の革製キーホルダーを見せる。
「革製のキーホルダー?」
「そうそう!」
村の女性たちに作ってもらったものだ。
「今、村の人に作ってもらってるんだけど」
「うん」
「これと、何を交換したらいいかな?」
「交換かー……」
さとるが考え込む。
「うーん……何がいいかな?」
「私が聞いてるのよ!」
「いや、だって異世界だろ?」
「そうだけど」
「こっちから持ち込んでも、大事にならない物じゃないと駄目でしょ?」
「……」
確かに。
私が元の世界へ戻った後も、村に残る物。
そして、あまり大きな影響を与えない物。
「そうね」
「それでいて、役に立ちそうな物」
「うーん……」
二人で考える。
「農具とか?」
「いや」
私は首を振る。
「それは私がネットで調べて、村の人に作ってもらってる」
「そうか」
「だから、もっと小物かな」
「小物ねぇ……」
さとるが店の中を見回しているらしい。
「何かあるかな……」
「あっ」
「ん?」
「洗濯ばさみ?」
「……」
私は一瞬、固まる。
「プラスチックを持ち込むな!」
「なんでだよ!」
「いやいや!」
私は思わずツッコむ。
「異世界にプラスチック製品を大量に持ち込むとか、色々問題ありそうでしょ!」
「まあ、それもそうか」
「もっと自然な物!」
「木製品とか?」
「そうね」
さとるは考え、木製品。木製品……。
「あ」
店の中を見回す。
「これなんかどう?」
「何?」
「木製の洗濯ばさみ」
「……」
「バネもないやつ」
「あーそんなのあったな。これなら木だけだし」
私は実物を手に取る。
昔ながらの木製洗濯ばさみ。
挟む部分を押して開き、手を離すと木の弾力で戻るタイプだ。
「……」
シンプル。本当にシンプル。
でも――
「洗濯物を干すのには使える」
「だな」
「村にも洗濯ってあるでしょうし、それなら役に立つかも」
「うん」
さとるが何かを思い出したように言う。
「あれ?」
「どうしたの?」
「これって、姉さんが間違えて注文したやつじゃなかった?」
「……」
「確か三十本近くあったよ」
「……あ」
そうだった。
「そういえば、そんなのあったわね」
商店をやっていると、たまにこういうことがある。
注文を間違えた。
仕入れたけど売れなかった。
そんな商品が倉庫の隅に眠っている。
「……」
私は木製洗濯ばさみを見る。
「まさか、こんなところで役に立つとは」
「人生、何があるか分からんな」
「本当にね」
私は笑う。
「じゃあ、試しに持って行ってみるか」
「交換できるか?」
「分からないけど」
革製キーホルダー。木製洗濯ばさみ。
一見すると、釣り合っているのかすら分からない。
でも――
「まずは見せてみないとね」
私は木製洗濯ばさみを数本、リュックへ入れる。
「それとキーホルダーも」
「頑張ってこい」
「行ってくる!」
私はリュックを背負う。
そして、小屋の扉を開けた。
「……」
異世界で。木製の洗濯ばさみが、どんな反応をされるのか。
「ちょっと楽しみかも」
こうして――私の店に眠っていた売れ残り商品が、思わぬ形で異世界へ旅立つことになった。




