捨てる革が商品になる?
「ん?」
村の中を歩いていると、少し先に村の女性たちが集まっているのが見えた。
「何してるんだろ?」
ちょっと気になる。
私はそのまま近づいていく。
「こんにちは〜」
「こんにちは……」
女性の一人が顔を上げる。
「あんた、変わった商人って人かい?」
「はい! そうです!」
最近は、すっかりこの呼ばれ方が定着してしまった。
「変わった商人さん!」
別の女性が笑う。
「あの水車小屋! すごく便利よー!」
「そうそう!」
「勝手にやってくれるから助かるわ!」
「よかったです!」
水車の評判は上々らしい。
自分が作ったわけではないけど、こうして喜んでもらえると嬉しい。
「で?」
私は女性たちが作業している物を見る。
「何してるんですか? こんな所で」
「んー……」
私は首を傾げる。
「村の中の見学?」
「なんだい、そりゃ……」
女性が苦笑する。
「まあ、いいけどね」
「皆さんは何をしてるんですか?」
「ああ」
女性が手元を見せてくれる。
「革の加工品を作ってるんだよ」
「ほぅ〜」
動物の革を加工しているらしい。
切ったり。縫ったり。形を整えたり。
「……」
私は興味深く眺める。
「そんなに珍しいかい?」
「ええ。まあ」
現代日本では、こういう作業を実際に見る機会なんてほとんどない。
「これは何に使うんです?」
「袋とか、紐とか、いろいろさ」
「なるほど」
そして――私はふと、脇に置かれている革の切れ端に目を向けた。
「この細かい革は?」
「ああ?」
女性がそれを見る。
「もう使えない所だよ」
「……」
使えない。つまり――
「捨てるんですか?」
「そうだね」
私は革の切れ端を手に取る。
小さい。形もバラバラ。
でも、革には違いない。
「……」
何かに使えそう。
「これに一部、穴を開けるのは簡単ですが?」
「穴を?」
女性が首を傾げる。
「まあ、簡単だけど?」
「ちょっと借りてもいいですか?」
「いいよ」
私は道具を借りる。
そして――革の端に小さな穴を開ける。
「それから……」
私は別の細い革紐を手に取る。
穴に通して――
くるっ。結ぶ。
「……」
「?」
女性たちが覗き込む。
「いったいなんだい?」
「えーっと……」
私は完成した物を手のひらに乗せる。
「キーホルダー的な?」
「きーほるだー?」
「はい」
「何に使うんだい?」
「鍵とか、小物を付けたり……」
私は説明しながら、少し考える。
この世界に「鍵をまとめて持つ」という文化があるのかは分からない。
なら――
「まあ、飾りみたいなものです」
「飾り?」
「はい」
女性たちは完成品を眺める。
「……」
「……」
「悪くないね」
「でしょう?」
「でも、こんな物が何になるんだい?」
「商品にできます」
「商品?」
「はい」
私は頷く。
「この完成品と、何か交換できます?」
「え?」
女性が驚く。
「これと?」
「はい」
「いやいや」
女性が笑う。
「それ、捨てるやつだよ?」
「……」
「そんな物と交換って言われても……」
私はキーホルダーを見る。
確かに。元々は捨てる革。
でも――
「……」
少し加工するだけで、形になった。
「なるほど」
私は笑う。
「だから、面白いのか」
「何がだい?」
「いえ」
私はキーホルダーを手のひらで転がす。
「捨てる物でも、使い方を変えれば商品になるかもしれないってことです」
女性たちは顔を見合わせる。
「……」
「……」
そして、一人が革の切れ端を見る。
「そう言われてみれば……今まで捨ててたからね。何か作れるかもしれないねぇ」
「……」
私はその様子を見ながら、ふと思った。
水車のような大きな技術だけじゃない。
村にある物を、別の使い方に変える。
それだけでも――
「新しい商品になるかもしれない」
私は小さな革の飾りを見つめた。
異世界の商売。
どうやら、私が知らない可能性は――まだまだ村の中に転がっているらしい。




