何かありますか?と聞かれても
最近、私のこともだいぶ村の人たちに知られてきた。
最初の頃は、
「何者だ?」
「どこから来た?」
そんな目で見られていたけど――今では村の中を歩いていても、特に変な目で見られることはない。
「こんにちは」
「おう」
軽く挨拶を交わす。
「……」
うん。
だいぶ馴染んできた気がする。
「ということで……」
今日は村の中を、ゆっくり見て回ることにした。
◇
「うーむ……」
畑。家。井戸。家畜。薪。荷車。
村の中を歩きながら、じっくり観察する。
「昔の田舎っていうのは分かる」
日本の昔の農村を紹介する動画を見ていたから、何となく分かる。
ただ――
「分かるんだけど……」
やっぱり、村の人たちの生活は私が思っていたより安定している。
水車もできた。
農具も、今のところは何とかなっている。
食料も作っている。
「確かに……」
これなら、
「何か困ったことがありますか?」
と聞かれても、答えにくいよね。
そもそも本人たちからすれば、これが普通の生活なのだから。
「うーむ……」
見た感じ、特別に困っていることはなさそう。
だからこそ、私が何をすればいいのか分からない。
そんなことを考えながら歩いていると――
「おう! あんたか」
「ん?」
振り返る。
「あ」
そこにいたのは、以前水車小屋で指揮を取っていた男性だった。
職人たちの中でも中心になっていた、親方風の人だ。
「こんにちは」
「何やってんだ?」
「え?」
私は少し考える。
「うーん……村の中で散歩?」
「なんだそりゃ」
「ですよね」
自分でもそう思う。
「じゃあ、何だ?」
「何か役に立てることないかなーって」
「……」
親方さんが私を見る。
「変わった商人だな」
「よく言われます」
もう何度目だろう。
「何かあります?」
私が聞くと――
「何かありますって聞かれてもなぁ?」
「ですよねー」
二人で顔を見合わせる。
「……」
「……」
何も思いつかない。
「まあ、今のところは特にないな」
「そうですか」
「水車も動いてるし、農具の話も村長から聞いた」
「はい」
「十分助かってる」
「それなら良かったです」
私は笑う。
でも――
「……」
やっぱり、これで終わりなのだろうか?
水車。農具。
それ以外に、私ができることはないのか。
「……」
村を歩く。今までと同じ景色。
畑。家。井戸。家畜。
何も変わっていないように見える。
でも――
「……」
私は少しだけ立ち止まった。
本当に?何も変わっていない?
水車ができた。
農具もこれから変わるかもしれない。
なら、その先には――
「……」
まだ私が気づいていないものがあるのかもしれない。
「うーん……」
私は再び歩き出す。
「もう少し、ゆっくり見てみよう」
急いで答えを探す必要はない。
この村で暮らしている人たちを見ていれば――
いつか、
「これ、もっと楽にできるんじゃない?」
と思う瞬間が来るかもしれない。
今の私にできるのは――それを見逃さないことだった。




