村長からのお礼
「はぁー……」
私は小屋の外で、水車小屋のある方向を眺めていた。
「水車小屋は、上手くいった」
完成した水車は、今も元気に回っている。
これで村の人たちの作業が、少しでも楽になればいい。
「……」
でも――
「他は何を教えればいいかなー」
水車が完成したからといって、私のやることがなくなったわけじゃない。
むしろ、ここからだ。
「また動画を見て、考えるかー」
現代には、昔の生活について解説している動画がいくらでもある。
農業。道具。保存食。衛生。
いろいろ調べてみよう。
「……」
でも、今回の水車作りで分かったこともある。
「知識だけあっても、厳しいこともあるのよね」
水車の仕組みを知っていても、自分では作れなかった。
職人さんたちが試行錯誤してくれたから、完成した。
「やっぱり、現地の人の力って大事ね」
そんなことを考えていると――
「グゥ……」
「……」
◇
コンコンコン!
「ん?」
「……寝ちゃってたか」
いつの間にか昼寝をしていたらしい。
コンコンコン!
「はいはーい!」
私は慌てて起き上がる。
「ちょっと待っててください!」
扉を開ける。
「どうしました?」
そこに立っていたのは――
「おや。村長さん?」
犬人の村長さんだった。
「突然すまんな」
「いえいえ」
「今回の水車小屋の件じゃが……」
村長さんが少し笑う。
「ありがとうな」
「……」
「皆、さっそく使い始めとる」
「本当ですか?」
「ああ」
村長さんが頷く。
「今まで人の手でやっておった作業が、ずいぶん楽になった」
「それは良かった!」
思わず笑顔になる。
自分が教えたことが、実際に役立っている。
それだけで嬉しい。
「それにしても……」
村長さんが腕を組む。
「ふむ」
「どうしました?」
「何のお礼もしないというのもな……」
「え?」
私は慌てて手を振る。
「いえいえ!」
「しかし――」
「本当に気にしないでください」
私は笑う。
「私はただ、仕組みを説明しただけですから」
「じゃが……」
「水車を作ったのは、村の職人さんたちです」
「それでも、お主がおらねば始まらなかった」
「……」
そう言われると、少し照れる。
「でも、本当に大丈夫です」
私は頭を下げる。
「気になさらないでください」
村長さんはしばらく私を見る。
「……そうか」
「はい」
「ならば、今はそうしておこう」
「ありがとうございます」
村長さんは帰ろうとする。
そして、ふと振り返った。
「ただな」
「はい?」
「もし、また何か面白い物を思いついたら――」
「……」
「村に教えてくれると助かる」
「!」
私は思わず笑ってしまう。
「もちろんです!」
「そうか」
村長さんも笑う。
「では、またな」
「はい!」
村長さんを見送る。
扉を閉める。
「……」
私はしばらく、その場に立っていた。
「面白い物……か」
水車は成功した。
村長さんからも信頼してもらえた。
そして今――
「私が何を持ってくるのか、期待され始めてる?」
そう考えると、ちょっとだけプレッシャーを感じる。
でも――
「……悪くないかも」
私は机の上のノートパソコンを見る。
「次は何にしようかな?」
こうして私は、再び現代の知識を探し始めた。




