水車作りは、そんなに簡単じゃない
あれから、私は毎日のように村へ通っている。
水車小屋の予定地には、何人もの職人さんたちが集まっていた。
私が渡した水車の模型と説明書を囲みながら――
「こうか?」
「いや。こっちじゃないか?」
「模型ではこうなっているぞ」
「だが、この大きさにすると……」
「うーむ……」
ああでもない。こうでもない。
と、みんなで相談しながら作業を進めている。
「……」
私はというと――見てるだけ……
職人さんたちが木を削る。測る。組み立てる。
また外す。そして、もう一度組み立てる。
「……」
私は何もしていない。
というか――
「私、指示できないし……」
水車なんて作ったことがない。
模型を組み立てただけ。
説明書だって読めば内容は分かるけど、実際に大きな水車を作る知識なんてない。
「……」
ちょっと気まずい。
「商人なのに、何もしてないわね……」
まあ、私が無理に口を出して壊すよりはいい。
そう思っていた。
――その時。
「できたぞ!」
「おお!」
水車が完成した。
「本当に?」
私は思わず近づく。
木製の大きな水車。模型を何倍にもしたような姿だ。
「これなら……」
水を流せば――
「回るはずだ」
職人さんが水路へ水を流す。
ザァァ……
水が水車へ流れ込む。
そして――
「……」
「……」
「……」
水車が、ほんの少し動いた。
「おお!」
……と思った次の瞬間。
「止まったぞ」
「……」
「なんで?」
職人さんたちが首を傾げる。
「もう一度!」
水を流す。
ザァァ……
ぐっ。ぐぐっ。ギギギ……
「……」
水車が重そうに動くがそして――
バキッ!
「うわ!」
「軸が折れた!」
「……」
私は固まる。
「……」
これ、私のせい?
いや。違う。私は作ってない。
でも――
「水車って……」
こんなに難しいの?
「模型では、ちゃんと回ったのに……」
大きくしただけなのに。
模型と実物では、全然違う。
「うーむ……」
職人さんたちは折れた軸を確認する。
「強度が足りない」
「水の力を受ける部分も考え直さないと」
「水路の流れも弱い」
「……」
問題が次々と出てくる。
私は思わず鞄を見る。
私は小屋に戻り、
「さとる……」
「なに?」
「私、水車を作ったことなんてないんだけど!?」
「知ってるよ」
「どうしよう!」
「ネットで調べれば?」
「それだ!」
そして――検索!
『水車 作り方』
『水車 軸 強度』
『水車 水量 回転』
『水車 水路 仕組み』
次々と調べていく。
「なるほど……」
水の流し方。水車の形。軸の固定方法。
水車の大きさによる問題。
模型では気にならなかったことが、次々と出てくる。
「……」
私は画面を見ながら唸る。
「知らなかった……」
そして、翌日。
調べた内容を職人さんたちに伝える。
「軸は、こっちの方が丈夫みたいです」
「なるほど」
「それと、水をこの位置から当てた方が回りやすいみたいです」
「ほう」
職人さんたちが試してみる。
「……」
今度は少し回る。
「おお!」
「回った!」
「だが、まだ弱いな」
「なら、水路を少し変えるか」
職人さんたちがまた相談する。
私はそれを見ながら思った。
「……」
現代知識チート。異世界。便利な技術。
なんとなく、もっと簡単にできると思っていた。知識さえ持っていれば、何でもできる。
そう思っていた。
でも――私、何でもできるわけじゃないんだ……
水車一つ作るだけでも、材料。
加工。強度。水の量。設置場所。
いろんな知識が必要になる。
「……」
むしろ私は、水車について何も知らなかった。
模型を見て、
「これを大きくすればいい」
なんて簡単に考えていた自分が恥ずかしくなる。でも。
「……」
職人さんたちは諦めていない。
失敗して。考えて。また作って。
少しずつ前へ進んでいる。
「そうよね」
私は小さく笑う。
「私一人で何でもやる必要なんてないんだ」
私には、現代の知識を調べる手段がある。
村には、木を加工できる職人がいる。
それぞれが得意なことを持っている。
なら――
「一緒に作ればいい」
私はもう一度、水車を見る。
まだ完成ではない。
でも、昨日より確実に前へ進んでいる。
「頑張りましょう!」
「おう!」
「まだまだこれからだ!」
水車作りは、思っていたよりずっと難しい。
けれど――その分、完成した時はきっと。
今までとは違う喜びがあるはずだった。




