水車の模型、村長の目に留まる
「ドン! ドン! ドン!」
「ふぁー……」
私は布団の中で目を擦る。
「眠い……」
昨日は水車の模型について調べていた。
水車そのものの仕組み。
昔の水車が何に使われていたのか。
どうすれば村の小川でも利用できそうなのか。
気がつけば夜遅くまで調べていた。
「なんだ……?」
また、
「ドン! ドン!」
「……誰?」
「おねちゃん! 居る?」
この声は――
「あー。シンスちゃん?」
「そー!」
私は慌てて起き上がる。
「ちょっと待ってて。今開けるから」
扉を開ける。
「おはよ!」
そこにはシンスちゃんが立っていた。
「おはよう!」
そして、その後ろには――
「あれ?」
昨日の男性がいる。
「あ、貴方は昨日の?」
「そうだ」
男性が軽く頭を下げる。
「すまんな。たまたまシンスが森に行くのを見つけてな」
「え?」
「話を聞いたら、お前のことを知っているって言っていたから」
「なるほど」
「まさか、本当にここに住んでいるとは思わなかったが……」
男性が小屋を見る。
「こんな森の中に、本当に小屋があるとはな」
「まあ……」
私は苦笑する。
「流れで、ここに住むことになりまして」
「流れ?」
「はい」
説明できない。異世界に飛ばされた。
神様に飛ばされた。なんて言えるわけがない。
「でも、どうしたの?」
私はシンスちゃんを見る。
「シンスちゃんは?」
「いや」
男性が答える。
「暇だから遊びに来たらしい」
「そうなの?」
「うん!」
シンスちゃんが元気よく頷く。
「まだ寝てたの?」
「夜遅くまで調べ物をしてたから……」
「暗いのに?」
「……」
私は固まる。そうだった。
この世界では夜に電気を点けている家なんてない。
「……まあ、そうね」
適当に誤魔化す。男性が小屋の中を覗く。
「しかし……」
「はい?」
「見たことのない物が色々とあるな……」
「あー……」
電気スタンド。ノートパソコン。扇風機。
IHコンロ。その他、現代の生活用品。
「ええ。まあ……」
いつもの返答。
「遠い親戚から貰った物です」
「……」
男性が怪しそうな目で私を見る。
「まあ、いいか」
どうやら、この言い訳にも慣れてきたらしい。
すると男性が本題を切り出した。
「そうそう」
「はい?」
「俺の用は、昨日のあの模型だ」
「ああ!」
水車の模型。
「村長に見せたんだ」
「村長さんに?」
「そう」
男性が頷く。
「そうしたら、興味を持ってな」
「本当ですか?」
「うん」
これは思った以上に早い。
「それで?」
「いくらするのか聞いてこいって」
「……」
私は一瞬、模型を売った時のことを考える。
昨日、男性には貸したつもりだった。
でも――
「私が作った物じゃないし」
模型自体も、元の世界では子供向けの工作キット。
「……」
私は笑う。
「あー」
「ん?」
「あれは差し上げますよ」
「え!?」
男性が目を丸くする。
「いいのか!?」
「ええ」
私は頷く。
「いいですよ」
「本当に?」
「はい」
「でも、金は?」
「いりません」
「……」
男性が困惑する。
「後で払って、とも言わないのか?」
「言いませんよ」
水車がこの村の役に立つなら、それでいい。
むしろ――
「村長さんが興味を持ってくれたなら、私としても嬉しいです」
「……」
男性は模型を見つめる。
「……そうなのか」
「はい」
「変わった商人だな」
「また言われた……」
シンスちゃんが笑う。
「おねちゃん、変なの!」
「シンスちゃんまで!」
「ははは!」
男性も笑う。
でも――
「……」
私は少しだけ嬉しかった。
昨日まで、私はこの村にとって完全な部外者だった。
それが今は――水車の模型を通して、村長にまで存在を知られた。
「……」
もしかすると。この世界で私ができることは、思っていたより多いのかもしれない。
そして――村長が水車に興味を持った。
これは、今後の展開を大きく変える出来事になるかもしれない。
「そうだ!」
私は男性を見る。
「村長さんに伝えてもらえますか?」
「何を?」
「水車について、もう少し詳しく説明できます」
「本当か?」
「はい!」
「なら、頼む」
「分かりました!」
シンスちゃんが横から口を挟む。
「おねちゃん、今日遊べる?」
「もちろん」
「やったー!」
「でも、その前に朝ご飯ね」
「ご飯!」
シンスちゃんの耳がピンと立つ。
「……」
私は思わず笑ってしまった。
水車の話も大事。村長との話も大事。
でも――
「まずは、ご飯を食べましょうか」
異世界生活は、今日もゆっくり進んでいく。




