小さな水車が村を動かす?
「よし!」
私は机の上に置かれた水車の模型を眺める。
「完成!」
小さな木製の水車。
説明書を見ながら組み立てただけだけど、ちゃんと水車の形になっている。
「中々の出来栄え」
くるくると羽根を回してみる。
「まあ、組み立てるだけの物だけど……」
それでも、これなら説明には使える。
私は説明書も手に取る。
「これに書かれている物を大きくすればいいだけ……だと思う」
実際にはそんな簡単じゃないだろう。
材料の強度も違う。水の流れも違う。
大きくしたら、その分だけ問題も増える。
でも――
「仕組みを説明するくらいなら、これで十分よね」
説明書も持っていこう。
私は水車の模型と説明書をリュックへ入れる。
そして、村へ向かう道を歩きながら考える。
「どうやってプレゼンしようかな……」
いきなり、
「水車を作りましょう!」
と言っても、意味が分からないだろう。
だったら――
「水車だと、粉にしたり、突いたりできます」
水の力を使って、機械を動かす。
「水の力なので、自動です」
人がずっと作業する必要がない。
「その間は、手が空きます」
……うん。
「そんな方向性でいいかな?」
私は一人で頷く。
便利さを説明する。それから模型を見せる。
実際に水を流して回してみる。
これなら伝わるはず。
◇
「……」
村へ着いた。
「……」
そこで私は立ち止まった。
「しまったな」
村を見回す。
「誰に話せばいいんだ?」
水車を作るなら、村の中でもそれなりに立場のある人に話した方がいい。
でも、誰がそうなのか分からない。
「見切り発車してしまったかしら……」
私が困っていると――
「なんだ? また来たのか?」
声が掛かった。
「あ!」
振り返る。
そこにいたのは――
「こんにちは!」
最初に野菜とマッチを交換してくれた男性だった。
「はい」
私は笑顔で答える。
「今度は、ちょっと変わった物を見せようかと」
「変わった物?」
「はい!」
私はリュックを下ろす。
そして――
「これです!」
小さな水車の模型を取り出した。
「……?」
男性が首を傾げる。
「何だ、これは?」
「水車です」
「水車?」
「はい」
私は説明を始める。
まず、水を流す。水が羽根に当たる。
すると、水車が回る。その回転を軸に伝える。
そして――
「この力を使えば、粉を挽いたり、何かを突いたりできます」
「……」
最初は、男性もいまいちピンと来ていない様子だった。
でも、説明を続ける。
「水の力なので、人がずっと動かす必要がありません」
「……」
「つまり、その作業をしている間、人の手が空きます」
男性が模型を見る。
「……なるほど」
「分かりました?」
「そうなると……」
男性が模型をじっと見る。
「便利になるよな?」
「はい」
私は頷く。
「なると思います」
男性はしばらく考えた。
「お前が、これを作れるのか?」
「え?」
私は模型を見る。
「いや……」
正直に答える。
「流石に、これをそのまま作ることはできません」
「そうか」
「ですが、仕組みを説明することはできます」
私は説明書を取り出す。
「それに、設計図もあります」
男性が説明書を受け取る。
「……」
しばらく眺めている。
「なるほどな」
そして――
「この模型ってのを、貸してくれるか?」
「はい!」
私は即答した。
「どうぞ!」
男性へ模型を渡す。
「これを見ながらなら、作れるかもしれない」
「そうです!」
……たぶん。いや。
私も作り方は知らないけど。
「それじゃあ……」
男性が顔を上げる。
「明日の今ぐらいに来れるか?」
「来れますよ」
「なら、また来てくれ!」
「分かりました!」
水車の模型を渡しただけなのに、話が思った以上に進んだ。
「……」
男性がふと聞く。
「しかし、お前」
「はい?」
「どこから来てるんだ?」
「……」
来た。この質問。
私は一瞬考える。
そして――森を指差した。
「あの森から来ています」
「森?」
「はい」
「森に住んでいるのか?」
「小屋を借りて、そこに住んでいます」
「……」
男性が私を見る。
そして、少し呆れたように笑った。
「変わった商人だな……」
「よく言われます」
「まあ、いいや」
男性は模型を見る。
「分かった」
「はい!」
「明日、また頼むぞ」
「もちろんです!」
私は頭を下げる。
そして村を後にする。
「……」
水車の模型は、もう私の手元にはない。
でも――
「なんか……」
胸が高鳴る。
今までの商品とは違う。マッチを売った時とは違う。今回は、物そのものを売ったわけじゃない。
仕組みを伝えた。
そして、その仕組みを――この世界の人が自分たちの手で作ろうとしている。
「……これ、面白いかも」
私は森へ向かって歩きながら、笑みを浮かべた。
異世界の村に――初めて、新しい技術の種を蒔いた瞬間だった。




