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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者:


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小さな水車が村を動かす?

「よし!」


私は机の上に置かれた水車の模型を眺める。


「完成!」


小さな木製の水車。

説明書を見ながら組み立てただけだけど、ちゃんと水車の形になっている。


「中々の出来栄え」


くるくると羽根を回してみる。


「まあ、組み立てるだけの物だけど……」


それでも、これなら説明には使える。

私は説明書も手に取る。


「これに書かれている物を大きくすればいいだけ……だと思う」


実際にはそんな簡単じゃないだろう。

材料の強度も違う。水の流れも違う。

大きくしたら、その分だけ問題も増える。


でも――


「仕組みを説明するくらいなら、これで十分よね」


説明書も持っていこう。

私は水車の模型と説明書をリュックへ入れる。

そして、村へ向かう道を歩きながら考える。


「どうやってプレゼンしようかな……」


いきなり、


「水車を作りましょう!」


と言っても、意味が分からないだろう。

だったら――


「水車だと、粉にしたり、突いたりできます」


水の力を使って、機械を動かす。


「水の力なので、自動です」


人がずっと作業する必要がない。


「その間は、手が空きます」


……うん。


「そんな方向性でいいかな?」


私は一人で頷く。

便利さを説明する。それから模型を見せる。

実際に水を流して回してみる。

これなら伝わるはず。



「……」


村へ着いた。


「……」


そこで私は立ち止まった。


「しまったな」


村を見回す。


「誰に話せばいいんだ?」


水車を作るなら、村の中でもそれなりに立場のある人に話した方がいい。

でも、誰がそうなのか分からない。


「見切り発車してしまったかしら……」


私が困っていると――


「なんだ? また来たのか?」


声が掛かった。


「あ!」


振り返る。

そこにいたのは――


「こんにちは!」


最初に野菜とマッチを交換してくれた男性だった。


「はい」


私は笑顔で答える。


「今度は、ちょっと変わった物を見せようかと」


「変わった物?」


「はい!」


私はリュックを下ろす。

そして――


「これです!」


小さな水車の模型を取り出した。


「……?」


男性が首を傾げる。


「何だ、これは?」


「水車です」


「水車?」


「はい」


私は説明を始める。

まず、水を流す。水が羽根に当たる。

すると、水車が回る。その回転を軸に伝える。


そして――


「この力を使えば、粉を挽いたり、何かを突いたりできます」


「……」


最初は、男性もいまいちピンと来ていない様子だった。


でも、説明を続ける。


「水の力なので、人がずっと動かす必要がありません」


「……」


「つまり、その作業をしている間、人の手が空きます」


男性が模型を見る。


「……なるほど」


「分かりました?」


「そうなると……」


男性が模型をじっと見る。


「便利になるよな?」


「はい」


私は頷く。


「なると思います」


男性はしばらく考えた。


「お前が、これを作れるのか?」


「え?」


私は模型を見る。


「いや……」


正直に答える。


「流石に、これをそのまま作ることはできません」


「そうか」


「ですが、仕組みを説明することはできます」


私は説明書を取り出す。


「それに、設計図もあります」


男性が説明書を受け取る。


「……」


しばらく眺めている。


「なるほどな」


そして――


「この模型ってのを、貸してくれるか?」


「はい!」


私は即答した。


「どうぞ!」


男性へ模型を渡す。


「これを見ながらなら、作れるかもしれない」


「そうです!」


……たぶん。いや。

私も作り方は知らないけど。


「それじゃあ……」


男性が顔を上げる。


「明日の今ぐらいに来れるか?」


「来れますよ」


「なら、また来てくれ!」


「分かりました!」


水車の模型を渡しただけなのに、話が思った以上に進んだ。


「……」


男性がふと聞く。


「しかし、お前」


「はい?」


「どこから来てるんだ?」


「……」


来た。この質問。

私は一瞬考える。

そして――森を指差した。


「あの森から来ています」


「森?」


「はい」


「森に住んでいるのか?」


「小屋を借りて、そこに住んでいます」


「……」


男性が私を見る。

そして、少し呆れたように笑った。


「変わった商人だな……」


「よく言われます」


「まあ、いいや」


男性は模型を見る。


「分かった」


「はい!」


「明日、また頼むぞ」


「もちろんです!」


私は頭を下げる。

そして村を後にする。


「……」


水車の模型は、もう私の手元にはない。


でも――


「なんか……」


胸が高鳴る。

今までの商品とは違う。マッチを売った時とは違う。今回は、物そのものを売ったわけじゃない。


仕組みを伝えた。


そして、その仕組みを――この世界の人が自分たちの手で作ろうとしている。


「……これ、面白いかも」


私は森へ向かって歩きながら、笑みを浮かべた。


異世界の村に――初めて、新しい技術の種を蒔いた瞬間だった。

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