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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者:


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まずは模型で見せてみよう

「全くもう!」


私は鞄の向こうを睨む。


「逃げるように配達に行っちゃって!」


ミカミさんは、私の質問に答えるどころか、


「じゃあ、元気でなー!」


と言って、そのままどこかへ行ってしまった。


「まあ、いいや」


神様に文句を言っても仕方がない。


「私は私のやるべきことをやらなきゃ」


私は小屋の外へ出る。

そして、村の方角を見る。


「うーむ……」


村の人たちの興味を惹くような物。

便利だけど、この世界にはまだない物。

それを見つけたい。


「……」


私は村で見た光景を、ゆっくり思い出していく。


畑。井戸。牛に似た動物。荷車。家。薪。

そして――


「やっぱり……」


私は思い出す。


「水車がなかった」


村の近くには小川が流れていた。

でも、水車らしきものは見当たらなかった。


「恐らく、動力と呼べるものはないと思う」


今の村では、人の力。動物の力。

それが中心なのだろう。

水車があれば、水の力を利用できる。

粉を挽いたり。水を汲み上げたり。

もしかしたら、農作業にも使えるかもしれない。


「……」


でも。


「そんな大きな物、私作れないしなぁ……」


水車なんて、どうやって作る?

木材を加工して。水車を作って。

川に設置して。それだけじゃない。

ちゃんと回るようにしないといけない。


「無理ね」


私は即座に諦める。


「私、日曜大工すらまともにやったことないし」


それなら――


「……」


何か別の方法はないか。

私は小屋へ戻る。


「うーん……」


そして。


「あっ」


突然、思いついた。


「さとる!」


「なーに?」


鞄の向こうから返事がある。


「水車の模型!」


「水車?」


「工作キット!」


「工作キット?」


「おもちゃの棚の近くにあったと思うから取ってきて!」


「分かった!」


さとるが店の中を探し始める。


「えーっと……」


ガサガサ。


「……」


「これ?」


鞄から出てきたのは、小さな箱。


「これこれ!」


私は受け取る。


「工作シリーズ!」


箱には、水車の模型が描かれている。


「たまに子供たちが買いに来るのよね」


「これ、何するの?」


さとるが首を傾げる。


「おもちゃで?」


「違うわよ」


私は箱を見せる。


「これを見せるの」


「……」


「村の人たちに、いきなり水車の話をしても分からないでしょ?」


「まあな」


「でも、実物……じゃないけど、模型なら」


箱から完成図を見せる。


「こういう物だって、イメージしやすいでしょ?」


「ああ!」


さとるが納得する。


「なるほど」


「それに――」


私は模型を指差す。


「これなら私でも作れるし」


「姉さん、工作キットなら作れるのか?」


「説明書があるからね!」


「そこ重要なんだな」


「重要よ!」


私は箱を開ける。

中には木材の部品。

小さな車輪。軸。そして説明書。


「これを作って、村の人たちに見せる」


実際に水が流れるところで回してみれば、もっと分かりやすい。


「水の力で回るんだって、実際に見せれば……」


村の人たちも興味を持ってくれるかもしれない。


「そこから、水車を作れる人を探す」


「なるほど」


「私が作るんじゃない」


私は笑う。


「作れる人に作ってもらうの」


これなら――現代の商品をそのまま与えるのではない。知識と仕組みを、この世界に伝える。


「……」


私は箱を眺める。小さな水車の模型。

たったこれだけの物だけど――もしかしたら。


「この村の生活を変えるきっかけになるかもしれない」


そう思うと、少しだけ胸が高鳴った。


「よし!」


私は説明書を広げる。


「まずは、これを完成させないとね!」


「姉さん、頑張れー」


「さとるも手伝って!」


「俺も?」


「兄弟なんだから当然でしょ!」


「はいはい」


異世界の小屋で――姉弟による、初めての異世界技術講座が始まった。

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