神様にも想定外はある
「……」
鞄の中を覗き込む。
いつものように、向こう側には店が見えている。
そして――
「……ん?」
何かが動いた。
「え?」
にゅっ。
「……」
「……」
空間から、ちほの頭が生えている。
「……」
その光景を見たミカミさんが固まった。
「……」
私も固まる。
「……」
さとるも固まる。
そして――
「空間からちほの頭が!?」
「ミカミさん!」
私は思わず叫ぶ。
「一体どうなってるのよ!?」
「いやいや」
ミカミさんが私を見る。
「お前こそどうなってるんだ!?」
「私に聞かないでよ!無限収納ってどうなってるのよ!?」
「いや、だって俺が知ってる無限収納って、普通は物を入れたり出したりするだけだぞ?」
「だから!」
私は鞄を指差す。
「鞄に無限収納をつけたでしょ?」
「あー!」
ミカミさんが頷く。
「つけたさ!」
「こっちだと鞄の中が地球に繋がってるのよ!」
「……」
ミカミさんが鞄を覗き込む。
そして――
「……げ!」
「マジでしょ?」
「マジ?」
「まじまじのマジ!」
「……」
ミカミさんが腕を組む。
しばらく考えた後――
「うーん」
「うーんじゃない!」
「まあ、いいか」
「何でそんなに適当なのよ!」
私は思わず声を上げる。
こっちは異世界に飛ばされて。
鞄から頭を出して。弟と話して。
電気まで引っ張って。もう色々と大変なのに。
原因を作った本人が、
「まあ、いいか」
で済ませようとしている。
「神様でしょ!?」
「神だって完璧じゃねー!」
ミカミさんが開き直る。
「完璧ならそもそも、ちほを異世界になんか飛ばさねー!」
「それは……」
「事故だったんだから仕方ないだろ!」
「……」
「それに、ある意味ちゃんと無限収納にはなってるだろ?」
「……」
確かに。物は無限に入る。
しかも、元の世界と繋がっている。
「逆ギレ!?」
「逆ギレじゃねーよ!」
ミカミさんが笑う。
「まあ、無事でいるんだからいいだろ?」
「……」
「ちゃんと寝る場所もある」
「うん」
「食べ物もある」
「うん」
「村の人とも仲良くなってるみたいじゃねーか」
「まあ……」
「だったら問題ない」
ミカミさんは、いつもの調子で言う。
「ゆっくり休めよ!」
「……」
「こっちのことは任せろ!」
「本当に?」
「ああ」
「ちゃんと店も?」
「任せろ」
「……」
私は少しだけ安心する。
元の世界の店。弟。そして、この異世界。
全部を気にしていたけど――
「ミカミさんが見てくれるなら……」
少しくらい、この世界を楽しんでもいいのかもしれない。
「分かった」
私は小さく笑う。
「じゃあ、もう少しこっちでゆっくりする」
「おう!」
ミカミさんが笑う。
「それでいいんだよ!」
「……」
でも。私はふと思う。
「ねえ、ミカミさん」
「ん?」
「この鞄……」
「うん?」
「本当に他に変な機能ないでしょうね?」
「……」
ミカミさんが目を逸らした。
「……」
「……」
「おい」
「何?」
「その反応、何かあるでしょ?」
「いや……」
「あるんでしょ!?」
異世界生活。
どうやら――まだまだ、何が起こるか分からないらしい。




