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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者:


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「困っていること」ではなく「知らないこと」

村の中を歩き回って――

私は小屋へ戻ってきた。


「……」


今日も色々な人に聞いた。何か困っていることはないか。欲しい物はないか。

もっと楽になればいいと思うことはないか。


でも――


「確かに……」


私は椅子に座る。


「『困っていることは?』って聞いても駄目だな」


当然なのかもしれない。

村の人たちにとっては、それが普通なのだから。



今日、村で見たものを思い出す。

畑。井戸。家畜。そして――


「牛に引かれた荷台車」


荷物を運ぶための荷車。

私はそれを見た時、思った。


「軽トラがあれば便利なのに」


荷物を積んで。エンジンを掛けて。

畑から村まで一気に運べる。

でも――


「ここの人たちは、軽トラを知らない」


知らないものを、


「欲しくないですか?」


と聞いても、欲しいとは言えない。

牛が荷物を運ぶ。それが普通。

それが当たり前。


「……」


私は今日まで、


「何か困っていることはありませんか?」


と聞いていた。

でも、違った。


「便利な物を知らないんだ」


だから、


「何か欲しい?」


と聞かれても答えられない。

例えば――マッチ。最初は誰も、


「マッチが欲しい」


なんて言わなかった。

そもそも知らないから。でも、実際に見せた。


シュッ。


火がついた。


「これは便利だ」


だから、野菜と交換してくれた。


「……」


私はマッチを一本取り出す。


「そういうことか」


必要な物を聞くんじゃない。

私が便利な物を見つける。

そして、それを実際に見せる。


「これがあれば、今より楽になる」


そう思ってもらえればいい。


「つまり……」


村の人たちではなく。


「私が気づかなきゃいけないんだ」


問題は、この村に何がないのか。

そして、それがあれば何が変わるのか。

そこを私が考える。


「……」


商店を経営していた時も、似たようなことはあった。

お客さんが、


「これが欲しい」


と言ってくるとは限らない。

店主の方から、


「こういう商品がありますよ」


と提案することもある。


「なるほど……」


異世界でも同じなのかもしれない。

ただし――今度は、売っている商品を並べるだけじゃない。


「この世界に合わせて、商品そのものを考える必要がある」


そう思うと、少しワクワクしてきた。


その時。


「おーい! 姉さん! いるー!?」


鞄の向こうから声が聞こえた。


「いるわよー!」


「よかった!」


さとるの声だ。


「ミカミさん! 帰ってきた!」


「なっ!?」


「おー。さとる! 上手くやってるか?」


「俺は大丈夫だけど!」


「俺は?」


「ふふふ……」


「ん?」


ミカミが首を傾げる。


「ちほ……?」


「……」


「ちほの声が聞こえる!?なぜ!?ちほは、異世界へ……」


「ばあー!!」


「うわー! 生首!!」

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