「困っていること」ではなく「知らないこと」
村の中を歩き回って――
私は小屋へ戻ってきた。
「……」
今日も色々な人に聞いた。何か困っていることはないか。欲しい物はないか。
もっと楽になればいいと思うことはないか。
でも――
「確かに……」
私は椅子に座る。
「『困っていることは?』って聞いても駄目だな」
当然なのかもしれない。
村の人たちにとっては、それが普通なのだから。
◇
今日、村で見たものを思い出す。
畑。井戸。家畜。そして――
「牛に引かれた荷台車」
荷物を運ぶための荷車。
私はそれを見た時、思った。
「軽トラがあれば便利なのに」
荷物を積んで。エンジンを掛けて。
畑から村まで一気に運べる。
でも――
「ここの人たちは、軽トラを知らない」
知らないものを、
「欲しくないですか?」
と聞いても、欲しいとは言えない。
牛が荷物を運ぶ。それが普通。
それが当たり前。
「……」
私は今日まで、
「何か困っていることはありませんか?」
と聞いていた。
でも、違った。
「便利な物を知らないんだ」
だから、
「何か欲しい?」
と聞かれても答えられない。
例えば――マッチ。最初は誰も、
「マッチが欲しい」
なんて言わなかった。
そもそも知らないから。でも、実際に見せた。
シュッ。
火がついた。
「これは便利だ」
だから、野菜と交換してくれた。
「……」
私はマッチを一本取り出す。
「そういうことか」
必要な物を聞くんじゃない。
私が便利な物を見つける。
そして、それを実際に見せる。
「これがあれば、今より楽になる」
そう思ってもらえればいい。
「つまり……」
村の人たちではなく。
「私が気づかなきゃいけないんだ」
問題は、この村に何がないのか。
そして、それがあれば何が変わるのか。
そこを私が考える。
「……」
商店を経営していた時も、似たようなことはあった。
お客さんが、
「これが欲しい」
と言ってくるとは限らない。
店主の方から、
「こういう商品がありますよ」
と提案することもある。
「なるほど……」
異世界でも同じなのかもしれない。
ただし――今度は、売っている商品を並べるだけじゃない。
「この世界に合わせて、商品そのものを考える必要がある」
そう思うと、少しワクワクしてきた。
その時。
「おーい! 姉さん! いるー!?」
鞄の向こうから声が聞こえた。
「いるわよー!」
「よかった!」
さとるの声だ。
「ミカミさん! 帰ってきた!」
「なっ!?」
「おー。さとる! 上手くやってるか?」
「俺は大丈夫だけど!」
「俺は?」
「ふふふ……」
「ん?」
ミカミが首を傾げる。
「ちほ……?」
「……」
「ちほの声が聞こえる!?なぜ!?ちほは、異世界へ……」
「ばあー!!」
「うわー! 生首!!」




