「困っていることはありませんか?」では駄目らしい
「さて……」
私は再び村へやって来た。
昨日と同じように村の中を歩いていると――
「こんにちは」
「こんにちは」
村の人たちが会釈してくれる。
「……」
どうやら、私の存在そのものは認知されたらしい。
最初は、
「誰だ、あの女?」
という感じだったのだろう。
でも、何度か商売に来ているうちに、
「ああ、あの変な服の商人ね」
くらいにはなったようだ……いや。
「変な服の商人って認識なのかしら?」
まあ、いい。目的は別にある。
今日は村の人たちが何に困っているのかを聞き出す。
「よし……」
私は最初に見かけた人へ声を掛ける。
「すみません」
「ん?」
「何か困っていることはありませんか?」
「……」
男性が首を傾げる。
「困っていること?」
「はい」
「急に言われても……」
「あー……」
確かに。いきなりそんなことを聞かれても困るか。気を取り直して、別の人へ。
「何か、欲しい物とかありませんか?」
「欲しい物?」
「はい」
「うーむ……何だろうな?」
「……」
また微妙な回答。
さらに別の人。
「何か困っていることはありませんか?」
「そんなこと聞かれても……」
「ですよねー……」
さらに別の人。
「今、何か不便なことってあります?」
「不便?」
「はい」
「……特にないな」
「そうですか……」
また別の人。
「何か、もっと楽になればいいと思うこととか――」
「うーん……」
「……」
「思いつかんな」
「そうですか……」
私は歩きながら頭を抱える。
「なんでよ……」
聞いても聞いても、微妙な回答ばかり。
「困っていることはありませんか?」
↓
「急に言われても……」
「欲しい物は?」
↓
「うーむ……」
「不便なことは?」
↓
「特にない」
「……」
私は立ち止まった。
「なぜだ?」
本当に困っていない?
そんなわけはないと思う。
農作業だって大変そうだった。
水も井戸から汲んでいる。薪も拾っている。
夜は蝋燭や油の明かり。
現代日本と比べれば、不便なことだらけだ。
なのに――
「困ってない?」
いや。もしかすると――
「私の聞き方?」
それとも、
「信用?」
私は自分の姿を見る。
見たことのない服。
見たことのないリュック。
腰には鉈。突然やってきて、
「何か困ってることありませんか?」
なんて聞いてくる謎の女。
「……」
「信用は微妙だと、私も思ってるけど」
そりゃそうだ。
私なら警戒する。
「でも……」
それだけではない気もする。
そもそも、この村の人たちにとって、今の生活が当たり前なのでは?という考えが浮かんだ。
朝起きて、畑へ行く。水を汲み薪を集める。
家畜の世話をする。
それが普通だから、
「何か困っていることは?」
と聞かれても、
「別に」
となるのではないか。
「……」
私は少し考える。
「じゃあ、聞き方を変えた方がいいのかな?」
「何が大変ですか?」
「一番時間が掛かる仕事は?」
「毎日、面倒だと思うことは?」
「もっと簡単にできたらいいと思うことは?」
具体的に聞けば、何か出てくるかもしれない。
「よし」
まだ今日は終わっていない。
「もう少し聞いてみよう」
私は再び村の中を歩き始めた。
異世界の人たちが「当たり前」だと思っていること。
そこに――この村を変えるヒントがあるかもしれない。




