物を与えるだけでは駄目?
「さとるー! いるー?」
鞄の向こうへ声を掛ける。
「いるけど、ちょっと待ってー!」
「はーい」
返事が聞こえる。
私は待っている間に、今日村でもらった野菜を並べてみる。
「なら、野菜でも鑑定してるか」
一つ手に取る。
「鑑定」
【キャベツに似た野菜。食用可能】
「ふむふむ」
次。
「鑑定」
【大根に似た野菜。食用可能】
「これも大丈夫」
さらにもう一つ。
「鑑定」
【ジャガイモに似た野菜。食用可能】
「うーむ」
見た目は日本の野菜によく似ている。
名前は違うけど、食べることはできそうだ。
「しかし……」
私は少し考える。
「魔法がないのに、鑑定は使えるのよね」
昨日、シンスに聞いた。
魔法はおとぎ話。
この世界には魔法なんてないらしい。
でも、私には鑑定が使える。
「スキルが魔法なのかしら?」
ミカミさんはスキルがあると言っていた。
「まあ、今考えても分からないか」
そうしていると――
「なーにー?」
さとるが戻ってきた。
「お帰り」
「何かあった?」
「近くの村に行ってきた」
「え?」
「物々交換してきた!」
「本当に?」
「うん」
私は今日の出来事を説明する。
村に行ったこと。いろいろな人と話したこと。
商品を交換したこと。
そして――
「お金の種類も聞いてきた!」
「そうなんだ!」
さとるが少し興奮する。
「どうだった?」
「うーむ……」
私は腕を組む。
「まだ何とも言えないかな?」
「なんで?」
「でも、人たちは良い感じの人ばっかりだった」
「それなら良かったじゃん」
「うん」
初めての村。最初は怖かった。
でも、話してみれば意外と普通だった。
「何と交換したの?」
「野菜系かな」
私は今日もらった野菜を見せる。
「たくさん貰った」
「へぇ」
「いる?」
「どれどれ……」
さとるが野菜を手に取る。
「……って、これさ?」
「何?」
「地球に持ち込んでいいの?」
「……」
私は固まった。
「……まずいかしら?」
「検疫的に……」
「そうね」
言われてみれば、その通りだ。
異世界の野菜。病原菌や害虫。
何が付着しているか分からない。
「地球に持ち込むのは危ないか」
「だと思う」
「じゃあ……」
私は手元の硬貨を見る。
「お金を貰ったから、これは平気かな?」
さとるが硬貨を確認する。
「まあ、無機物なら……?」
「なら大丈夫ね」
「たぶん」
「たぶんかぁ」
「でもさ」
さとるが真面目な顔になる。
「便利な物を交換するのはいいけど……」
「うん」
「もしだよ?」
「うん」
「姉さんがこっちに戻ってきたら、手に入らなくなるよ?」
「……」
「それでもいいのかな?」
私は黙って考える。
確かに。今は鞄を通して、いくらでも商品を持ってこられる。
でも――私はいつか元の世界へ戻る。
その時、この村の人たちはどうなる?
「……あー」
私は頭を掻く。
「そうね」
今だけ便利な物を与えても、それがなくなったら元に戻ってしまう。
「どうすれば?」
「うーむ……」
さとるも考える。
そして――
「それなら、魚をあげるんじゃなくて」
「うん」
「魚の釣り方を教えるのは?」
「と言うと?」
「技術的なのとか」
さとるが続ける。
「そっちで再現する方法とか?」
「……」
私は目を見開く。
「……あー」
確かに。魚を毎日渡すより、魚を獲る方法を教えた方がいい。
鍬を渡すだけではなく、農業の方法を教える。
肥料を渡すだけではなく、肥料を作る方法を教える。
「確かに」
私は頷く。
「それなら、その方がいいわよね?」
「多分?」
「多分なの?」
「俺も異世界に行ったことないから分からん」
「それはそうね」
二人で考える。
「じゃあ、何がいいかしら?」
「村のこと、よく思い出してみてよ」
「村?」
「うん」
さとるが言う。
「今日、何を見た?」
私は今日の村を思い出す。
畑。家。井戸。家畜。村人。
「……」
何かあった。
確かに、何か気になったことがあったはず。
「何か……」
私は目を閉じる。
村で見たものを、一つずつ思い出していく。
「考えてみる」
異世界の人たちに何を渡すべきなのか。
商品ではなく――この世界に残るものを。私はもう一度、今日見た村の景色を思い出し始めた。




