異世界の商売と通貨事情
「こんにちはー!」
私は村の中を歩きながら、片っ端から家に声を掛けていった。
「商売に来ましたー!」
……とはいえ、最初はかなり怪しまれた。
そりゃそうだ。
見たことのない服。見たことのない鞄。
腰には鉈。
そんな女が、いきなり村を歩いている。
「……怪しいわよね」
自分でもそう思う。
それでも、商品を見せれば話は変わった。
「これは火を簡単につけられる道具です」
マッチを見せる。
シュッ。
「おお!」
「これは明かりに使います」
蝋燭。
「紙です」
紙。
そして――
「調味料もありますよ」
塩。砂糖。胡椒。
少しずつ商品を見せていく。
すると、
「それなら、これと交換してくれ」
「これでどうだ?」
「野菜ならあるぞ」
と、物々交換が始まった。
「ありがとうございます!」
私も相手の出してくれた物を確認しながら、交換していく。
中には、道ですれ違った人に声を掛けることもあった。
「こんにちは!」
「……何だ?」
「少し商売をしているんですけど、見ていきませんか?」
「商売?」
「はい!」
怪しそうな顔をされる。
当然だ。でも、商品を見せると――
「これは便利そうだな」
「それなら買ってみるか」
「砂糖か……最近高いんだよな」
と、話が進む。
「……」
思ったより、普通に商売できている。
もちろん、私を見る目は最後まで怪しかったけど。
「まあ……」
仕方ない。
私だって、見知らぬ人が突然やってきたら警戒する。それでも、声を掛けた人たちは比較的温厚だった。
怒鳴られることもない。
追い払われることもない。
「意外と平和ね」
少し安心した。
そして、もう一つ分かったことがある。
「色んな種族がいるのね……」
普通の人族。猫人。犬人。
そして――狐人までいる。
耳や尻尾が違う。顔立ちも少し違う。
でも、みんな普通に村で暮らしている。
「昨日会ったシンスちゃんだけじゃなかったんだ」
異世界に来てから初めて、世界が少し広がった気がした。
◇
私は商売の合間に、通貨についても聞いてみた。どうやら、この世界にはちゃんと貨幣があるらしい。
「鉄、銅、銀、金、白金……」
五種類。
よく使われるのは、銀以下の貨幣だそうだ。
鉄銭。銅銭。銀貨。金貨。白金貨。
「鉄銭と銅銭は手に入った」
というより、商品の代金として支払ってもらった。
「これが、お金か……」
手のひらに乗せて眺める。
見慣れない貨幣。
当然、現代日本のお金とは全然違う。
「ちなみに、パン一個が五鉄銭くらいだそうだ」
なるほど。
……と言われても、いまいちピンとこない。
「日本円で考えるなら……」
一個一五〇円くらい?
いや、そもそも物価が分からない。
「まあ、今は考えても仕方ないか」
まだ情報が足りない。
「少しずつ情報収集ね」
村の人たちから聞いた話だけでも、かなりの収穫があった。
村の様子。種族。通貨。物価。食べ物。
そして、何が不足しているのか。
商店をやっていた経験が、こんなところで役に立つとは思わなかった。
「さて……」
リュックを見る。
「そろそろ戻るか」
持ってきた商品は、ほとんどなくなった。
その代わり――
「謎野菜もいっぱい貰ったし」
見たことのない野菜。
形も大きさも、日本のものとは少し違う。
「これ、食べられるのかな?」
鑑定すれば分かるだろう。
「よし」
私はリュックを背負い直す。
「今日はこのくらいでいいわね」
初めての村。初めての商売。
そして、初めて手に入れた異世界のお金。
「……」
なんだか、妙に楽しい。
私は村を振り返る。
「また来よう」
そう思いながら、森の中へ向かって歩き出した。
異世界での商売。
その第一歩は――思った以上に、順調だった。




