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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者:


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16/33

初めての異世界商談

「……」


村の奥にある家の陰。何かが動いた気がした。

私は足を止めた。


「……誰か、いますか?」


返事がない。


「こんにちはー!」


少し声を大きくしてみる。


すると――ガチャ。


家の扉が開いた。


「……」


中から出てきたのは、一人の男性だった。

普通の人間に見える。頭に獣耳はない。

尻尾もない。


「人族……?」


男性が私を見る。


「お前は……?」


「あ、こんにちは」


私は慌てて頭を下げる。


「旅の者です」


「旅の者?」


「はい」


ここで嘘をつくのは緊張する。

でも、異世界から来ましたなんて言えるわけがない。


「少し、この村に寄らせてもらおうと思って」


男性は私の服を見る。

そしてリュックを見る。さらに腰の鉈を見る。


「……商人か?」


「え?」


「その荷物」


「あー……」


私は少し考える。

ここで使うしかない。


「はい」


「何を売っている?」


「色々と」


「色々?」


「はい」


私はリュックを下ろす。


「よかったら、見てみますか?」


男性は少し警戒しながら近づいてくる。


「……」


リュックを開ける。

まず取り出したのは――


「これです」


マッチ。


「何だ?」


「火を簡単につけられる道具です」


私は一本取り出す。


「こうして……」


シュッ。


火がつく。


「おお!」


男性が目を見開いた。


「火打石ではないのか?」


「違います」


「どうやって?」


「擦るだけです」


男性はマッチを見つめる。


「これは……便利だな」


「でしょう?」


少し手応えを感じた。


「他にもあります」


次に蝋燭。


「これは夜に使う明かりです」


「油皿より長く使えるのか?」


「はい」


さらに紙。


「これは?」


「紙です」


男性が紙を手に取る。


「……薄い」


「文字を書いたり、包んだりできます」


「こんなに白い紙は初めて見た」


「え?」


私は驚く。

紙自体が珍しい?

これは思った以上にいけるかもしれない。


「それと――」


私は調味料を取り出した。


塩。砂糖。胡椒。


「これは?」


「塩です」


男性が少しだけ舐める。


「……塩?」


「はい」


「普通の塩じゃないか」


「あれ?」


ちょっと期待しすぎた?

すると男性が続ける。


「だが、値段は?」


「……」


来た!商談だ。


私は頭の中で考える。

この世界のお金の価値なんて分からない。

日本円なら分かる。

でも、この世界の貨幣は知らない。


「……物々交換でもいいですか?」


男性が眉を上げる。


「物々交換?」


「はい」


私は笑顔を作る。


「私はこの辺りのことをよく知らないので」


「なるほど」


男性は少し考えた。


「何が欲しい?」


「食べ物……でしょうか」


「野菜ならある」


「それでお願いします」


男性が笑う。


「変な商人だな」


「よく言われます」


もちろん、今初めて言われた。


「少し待っていろ」


男性が家の中へ戻る。

しばらくして――


「これでどうだ?」


持ってきたのは、野菜だった。


「……」


大きい。立派だ。キャベツの様なものに、大根ぽい野菜。


「すごい……」


思わず声が出る。


「これ、全部?」


「うちで採れたものだ」


「ありがとうございます!」


「何と交換する?」


私は考える。


「じゃあ……」


塩を少し。


「これで」


「これだけ?」


男性が驚く。


「はい」


「本当にいいのか?」


「ええ」


まだ相場が分からない。

むしろ最初は、多少損してでも情報を集めた方がいい。

男性は塩を受け取った。


「……ありがとう」


「こちらこそ」


野菜を受け取る。


「……」


胸が高鳴る。


「売れた……」


異世界で。初めて。自分の商品を。


「……」


私は思わず笑ってしまう。

商店をやってきて、何度も商品を売ってきた。


でも――異世界で初めて商品を売った。

それは、今までとは全然違う感覚だった。


「また来てもいいですか?」


男性が顔を上げる。


「ああ」


「ありがとうございます」


私は頭を下げる。

そして村の中を歩き始めた。


「……」


一つ分かった。この世界には――商売がある。

そして、私の商店の商品にも――価値がある。


「これは……」


面白いかもしれない。異世界で商店を始める。

そんな未来が、少しだけ見えた気がした。

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