いざ、異世界の村へ!
「……」
村が見える。
「……」
私は立ち止まっていた。
「と、意気込んで来たものの……」
やはり、最初の一歩が踏み出せない。
目の前には、昨日遠くから眺めただけの村。
今日は、その中へ入ろうとしている。
リュックの中には、マッチ、蝋燭、紙、塩、砂糖、胡椒、醤油、味噌、油。
そして腰には鉈。
「……」
いざとなると緊張する。
「シンスちゃんと一緒に来た方が良かったかな?」
昨日の猫人の女の子。
一緒に来てもらえば、少なくとも村の中で迷子になることはないだろう。
それに、シンスちゃんの家族もいる。
「うーむ……」
私は腕を組む。
でも――
「私もいい大人だ」
二十六歳。社会人。商店の店主。
「子供のシンスちゃんに頼るわけにはいかない!」
そう。ここは自分で行くべきだ。
「……よし!」
私は一歩踏み出した。
「えーい!」
もう一歩。
「堂々と行くぞ!」
ここで挙動不審になったら、余計に怪しい。
私は胸を張り、村へ向かって歩き始めた。
◇
近づいてみると、遠くから見ていた時とは全然違う。
「おお……」
まず目に入ったのは、家々。
屋根には麦藁が使われている。
壁も木や土で作られているようだ。
「本当に昔の村みたい……」
道は舗装されていない。
ところどころに轍が残っている。
家の近くには井戸。その周りには畑。
そして――
「おっ」
畑の向こうに、動物がいる。
「牛……?」
いや。よく見ると少し違う。
牛によく似ているけど、角の形も身体つきも微妙に違う。
「牛に近い動物ね」
さらにその奥には――
「鶏?」
これも鶏によく似ている。
でも、私が知っている鶏より一回り大きい。
「……」
畑。藁葺きの家。井戸。家畜。そして広がる田園。
「ザッ・田舎!」
思わず声に出してしまった。
異世界に来たはずなのに、どこか懐かしい。
私が子供の頃に見た田舎の風景にも似ている。
「……」
でも。
「人がいないわね」
村の中を見回す。
誰か歩いているかと思ったのに、姿が見えない。
「おかしいな……」
畑にも人がいない。家の前にもいない。
井戸の周りにもいない。
「休憩時間?」
農作業の合間に家へ戻っているのかもしれない。
「それとも……」
私は少し不安になる。
「みんな、どこにいるの?」
村は静かだった。風が吹き抜ける。
麦藁屋根が、かすかに揺れる。
遠くから家畜の鳴き声が聞こえる。
「……」
私はリュックの紐を握り直した。
ここまで来た。もう戻るのも変だ。
「よし……」
小さく息を吐く。
「とりあえず、村の中を見てみよう」
商人として来たのだ。
堂々と怪しまれないように。
そして――
「まずは、人を探さないとね」
私は村へ向かって、さらに一歩を踏み出した。
その時。
「……あれ?」
村の奥。
一軒の家の陰から――何かが動いた気がした。
「人……?」
私は足を止める。
目を凝らす。
「……」
今度こそ、この村で誰かと話すことになるのだろうか。
胸が少しだけ高鳴った。
異世界に来て、初めての――村への一歩だった。




