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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者:


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いざ、異世界の村へ!

「……」


村が見える。


「……」


私は立ち止まっていた。


「と、意気込んで来たものの……」


やはり、最初の一歩が踏み出せない。

目の前には、昨日遠くから眺めただけの村。

今日は、その中へ入ろうとしている。


リュックの中には、マッチ、蝋燭、紙、塩、砂糖、胡椒、醤油、味噌、油。


そして腰には鉈。


「……」


いざとなると緊張する。


「シンスちゃんと一緒に来た方が良かったかな?」


昨日の猫人の女の子。


一緒に来てもらえば、少なくとも村の中で迷子になることはないだろう。


それに、シンスちゃんの家族もいる。


「うーむ……」


私は腕を組む。


でも――


「私もいい大人だ」


二十六歳。社会人。商店の店主。


「子供のシンスちゃんに頼るわけにはいかない!」


そう。ここは自分で行くべきだ。


「……よし!」


私は一歩踏み出した。


「えーい!」


もう一歩。


「堂々と行くぞ!」


ここで挙動不審になったら、余計に怪しい。

私は胸を張り、村へ向かって歩き始めた。



近づいてみると、遠くから見ていた時とは全然違う。


「おお……」


まず目に入ったのは、家々。

屋根には麦藁が使われている。

壁も木や土で作られているようだ。


「本当に昔の村みたい……」


道は舗装されていない。

ところどころに轍が残っている。


家の近くには井戸。その周りには畑。


そして――


「おっ」


畑の向こうに、動物がいる。


「牛……?」


いや。よく見ると少し違う。

牛によく似ているけど、角の形も身体つきも微妙に違う。


「牛に近い動物ね」


さらにその奥には――


「鶏?」


これも鶏によく似ている。

でも、私が知っている鶏より一回り大きい。


「……」


畑。藁葺きの家。井戸。家畜。そして広がる田園。


「ザッ・田舎!」


思わず声に出してしまった。

異世界に来たはずなのに、どこか懐かしい。

私が子供の頃に見た田舎の風景にも似ている。


「……」


でも。


「人がいないわね」


村の中を見回す。

誰か歩いているかと思ったのに、姿が見えない。


「おかしいな……」


畑にも人がいない。家の前にもいない。

井戸の周りにもいない。


「休憩時間?」


農作業の合間に家へ戻っているのかもしれない。


「それとも……」


私は少し不安になる。


「みんな、どこにいるの?」


村は静かだった。風が吹き抜ける。

麦藁屋根が、かすかに揺れる。

遠くから家畜の鳴き声が聞こえる。


「……」


私はリュックの紐を握り直した。


ここまで来た。もう戻るのも変だ。


「よし……」


小さく息を吐く。


「とりあえず、村の中を見てみよう」


商人として来たのだ。

堂々と怪しまれないように。


そして――


「まずは、人を探さないとね」


私は村へ向かって、さらに一歩を踏み出した。


その時。


「……あれ?」


村の奥。


一軒の家の陰から――何かが動いた気がした。


「人……?」


私は足を止める。

目を凝らす。


「……」


今度こそ、この村で誰かと話すことになるのだろうか。


胸が少しだけ高鳴った。

異世界に来て、初めての――村への一歩だった。

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