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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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新しい拠点に換気設備!完成へ向けて大忙し!

……あれ?


ほとんど動かない。


「うーん。入口から風は入っていますけど、出口の方はあまり動きませんね」


「確かに。思ったほど空気が抜けていないようですな」


職人たちは首を傾げた。


「穴が小さいのでしょうか?」


「いや、入口と出口の位置が悪いのかもしれん」


「竹の筒を取り付けた方はどうだ?」


さっそく原因を考え始める。

私は資料を開きながら、説明した。


「風向きや入口と出口の位置によっても、空気の流れは変わると思います。それに、出口が狭すぎても、空気が抜けにくいかもしれません」


「なるほど……」


「一つずつ変えて、比べてみるのがよさそうですね」


「よし。では、出口を少し広げたものを試してみよう」


「竹の筒を高くしたものも作ってみますか」


職人たちは、すぐに次の試作に取りかかった。

失敗したから終わりではない。

何が問題なのかを考え、別の方法を試してみる。


うん。


こういうところが大切なのだ。

しばらくして、二つ目の試作品が完成した。

今度は、空気の出口を少し広げ、竹の筒も高くしてある。

さらに、入口と出口の位置も調整したらしい。


「では、もう一度試してみましょう」


今度は、倉庫の中で風の動きを確認する。

入口に木の皮を近づけると、ふわりと揺れた。


そして、上部の出口でも……ひらり。


木の皮が、先ほどよりも大きく動いた。


「おおっ!」


「今度は、ちゃんと抜けていますぞ!」


「入口と出口の両方で動きが確認できましたな!」


職人たちの顔が明るくなった。

もちろん、これだけで十分な換気ができていると決まったわけではない。


風の強さや向きによっても変わるだろう。


それでも、最初の試作品より空気が流れていることは分かった。


「すごいですね!」


私も思わず拍手した。

すると、木工職人が照れくさそうに笑った。


「いやいや。まだ改良の余地はあります。これから、風の強い日や弱い日にも確かめてみますよ」


「雨が降ったときも確認せねばな」


「そうだ。換気口から水が入らないか、きちんと調べておこう」


職人たちは、もう次の課題を考えていた。


頼もしいなあ。


私が資料を渡しただけなのに、ここまで進むとは思わなかった。


次は、雨の吹き込みを確認することになった。


換気口の外側に水をかけ、内側へ水が入ってこないか調べる。

最初の試作品では、竹の隙間から少し水が入り込んでしまった。


「ああ、やはり入りますな」


「竹の重ね方を変えてみよう。外側へ水が流れるようにすればいいのではないか?」


「それなら、上側の竹を少し長くして、下側に重ねてみるのはどうだ?」


「なるほど。水が内側へ向かわず、外へ流れるようにするわけか」


職人たちは竹の配置を変え、もう一度試した。

今度は、内側へ入り込む水が減った。


完全に防げたわけではないが、改良の効果はあった。


「よし。これなら、さらに工夫できそうだな」


「虫が入らないようにする方法も考えたいですね」


私がそう言うと、竹職人が頷いた。


「細い竹を組んで、隙間を狭くすることはできます。ただ、狭くしすぎると風が通りにくくなるでしょう」


「そうなんですよね。そこは、風の通り方も見ながら調整する必要があります」


「なら、いくつか違うものを作って比べましょう」


またしても、職人たちが自分たちで話を進めていく。

私は横で資料を見せたり、質問に答えたりするだけだった。


いや、これでいいのだ。


村の人たちが自分で考え、自分で工夫できるようになれば、私がいなくても技術は残る。


それに、こうして改良を重ねれば、この村の気候や材料に合った換気設備ができるはずだ。


「ちほ殿、建設中の建物にも、この仕組みを取り入れたいのですが」


職人の言葉に、私は顔を上げた。


「倉庫兼住宅兼店のことですか?」


「ええ。せっかく建てるのですから、最初から換気を考えておいた方がよいでしょう」


確かに!今建てている建物には、倉庫も住宅も店もある。


木材や竹製品を保管する倉庫。

私が暮らす住宅部分。

そして、村の品物を並べたり、商人との取引に使ったりする店の部分。


それぞれに、必要な換気の仕方は違う。


「倉庫は、湿気がこもらないようにしたいですね。特に乾燥させた食料を置く場所は、保管方法にも気をつけたいです」


「木材を置く場所も、空気が通るようにしましょう」


「店の部分は、商品に埃や雨が入らないようにしたいですな」


「住宅部分は、風が通るようにしつつ、雨が入らないようにする必要がありますね」


みんなで建物の設計図を広げ、換気口を設ける場所を考える。

倉庫部分には、下側から空気を取り入れ、上部から抜ける仕組みを設ける。


ただし、乾燥食品を保管する場所は、湿気や虫の侵入にも気を配る。


店の部分は、商品に直接風や雨が当たりすぎないよう、換気口の位置を調整する。

住宅部分は、窓も利用しながら自然に風が通るようにする。


そして、竹の筒を使った空気の出口も、建物の形に合わせて取り付ける予定だ。


「これなら、今後の建物にも応用できそうですね」


私が言うと、職人たちは嬉しそうに頷いた。


「まずは、この建物で試してみましょう。使いながら、もっとよい方法が見つかるかもしれません」


「そうですね!」


完成したら、実際に暮らしながら確かめていけばいい。


使いにくいところがあれば直す。

換気が足りなければ、また工夫する。

そうやって、村に合った設備にしていけばいいのだ。


私は、改めて試作品を眺めた。


木材と竹を組み合わせただけの、決して複雑ではない設備。


それでも、最初は何もなかったところから、資料を参考にして形にし、実際に試して、問題を見つけて、改良するところまで進んだ。


「……村の技術も、少しずつ進歩しているんですね」


思わず口にすると、職人が笑った。


「ちほ殿が、いろいろな知識を持ってきてくださるおかげですよ」


「いえいえ。私は資料を持ってきただけです。実際に作ったのは、皆さんですから」


これは本心だった。


知識があっても、それを実際に使える形にするのは簡単ではない。


材料も違うし、道具も違う。この世界の環境に合わせて工夫する必要がある。


そして、それをできるのは、この村で暮らし、木材や竹を扱ってきた職人たちなのだ。


「これからも、いろいろ試していきましょう!」


「もちろんです!」


職人たちは、すでに建設中の建物へ取り付けるための準備を始めていた。


倉庫兼住宅兼店。


最初は、物を保管する場所が足りないという話から始まった。


それが、住居になり、店になり、今度は換気設備まで付くことになった。


……。


「私、最初は倉庫の話をしていただけなんだけどなあ」


思わず呟く。


でも、建物が少しずつ便利になっていくのは嬉しい。この村には、まだまだ改善できることがたくさんある。


そして、村の人たちは、自分たちの手でそれを変えようとしている。


換気扇を使えるようになるのは、もっと先の話かもしれない。


それでも、今ある材料でできることはある。

まずは自然の風を利用する。

そのために、木材と竹を使って工夫する。


今回の試作品は、その第一歩だ。


「……さて、次は何を改善しようかな」


そう考えた瞬間、私は慌てて首を振った。


いやいや!


まずは、新しい建物を完成させないと!

これ以上、仕事を増やしてどうするのよ!


私は苦笑しながら、職人たちが換気設備を取り付ける様子を見守った。


新しい拠点の建設は、順調に進んでいた。


倉庫兼住宅兼店。


最初は倉庫を作るという話だったのに、いつの間にか私の住居と村の店まで一緒になってしまった。


まあ、便利になるならいいんだけどね。


「ちほ殿、換気設備の取り付けを始めますぞ!」


職人の声に、私は建設中の建物へ向かった。


「おお! いよいよですね!」

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