風を通す工夫!木材と竹の換気設備
換気扇か。私はスマホで調べた資料を眺めながら、ため息をついた。
「取り付けるには電気が必要なのよね……」
もちろん、この世界に電気なんてものはない。
いや、正確には雷はあるけど、そういう話じゃない。
電気を作る設備もなければ、配線もない。
換気扇を買ってきて、はい取り付けます!
なんて簡単にはいかないのだ。
「となると、可能な限り自然換気かな」
風を利用して、建物の中に空気を通す。
窓を開けるだけでも多少は違うけれど、倉庫となると、それだけでは心もとない。
雨が吹き込んだら困るし、虫が入ってくるのも避けたい。
「設備による換気も考えないとな」
私は資料を籠に入れると、村の職人たちが集まっている場所へ向かった。
「今日は換気について相談したいんです」
私が資料を広げると、木工職人たちが興味深そうに覗き込んだ。
「換気というのは、建物の中の空気を入れ替えることですな?」
「そうです。湿気がこもると、木材にも乾燥させた食料にもよくありませんから」
「なるほど。だが、ただ穴を開ければいいというものでもないか」
「その通りです!」
さすが職人さん。
すぐに問題点に気づいてくれた。
「風が通るように穴を開ければ、雨も入るかもしれん」
「虫も入ってくるな」
「それに、風が強い日には中の物が傷む可能性もある」
次々と意見が出てくる。
私は資料の中から、換気口や通風の仕組みが描かれたページを取り出した。
「このあたりを参考にできないかなと思って」
職人たちは、紙に描かれた図をじっくりと眺めた。
「上の方にも空気の出口を作るのか」
「暖かい空気は上にたまりやすいから、上から逃がす工夫ですね」
「なら、下から空気を取り入れて、上から出せばいいのか?」
「そういう考え方です!」
私が説明すると、職人たちは顔を見合わせた。
「入口と出口か。確かに、入口だけでは空気が流れにくいな」
「風が入る場所と、抜ける場所を考える必要があるわけだ」
おお。
私が全部説明しなくても、ちゃんと理解してくれている。
いや、むしろ私より詳しくなりそうな勢いだ。
「では、木材と竹で作れないか試してみよう」
職人たちは、さっそく相談を始めた。
まず考えたのは、壁の下側に設ける空気の取り入れ口だった。
ただ穴を開けるだけでは、雨や虫が入りやすい。
そこで、木材で枠を作り、その内側に竹を細く割ったものを並べてみることになった。
「竹を少しずつ重ねれば、直接雨が入りにくくなるのではないか?」
「なるほど。屋根の瓦のように重ねるわけか」
「だが、隙間を塞ぎすぎると風が通らんぞ」
「なら、竹の間隔を変えて試せばいい」
職人たちは、実際に竹を並べながら話し合っている。
私は横で見ているだけだった。
いや、見ているだけというのも少し違う。
「雨が吹き込まないか、風が通るか、両方を確認した方がいいと思います」
「そうだな。水をかけて試してみよう」
「風の通り具合も比べたい。穴の大きさを変えたものを何種類か作るか」
私の言葉をきっかけに、職人たちはさらに具体的な方法を考え始めた。
よしよし。
こういうのが大事なのよ。
私が完成品を作るんじゃない。
私が知っている知識を提供して、村の人たちが自分たちで使える形にする。
その方が、あとあと絶対に役立つはずだ。
次に取り組んだのは、上部の空気の出口だった。
「こちらは、屋根の近くに作るのがよさそうだな」
「だが、上から雨が入らないようにせねば」
「壁から少し突き出す形にするのはどうだ?」
「竹を組み合わせて、雨を避ける形にできないか?」
今度は竹職人も加わり、あれこれと意見を出している。
木材で枠を作り、竹を組み合わせて雨よけを設ける。
さらに、開き具合を調整できるようにすれば、風の強い日には閉じ、必要なときには広く開けられるかもしれない。
「おお、いいですね!」
私が声を上げると、職人たちは少し得意そうな顔をした。
「まだ試してみないと分からんぞ」
「そうそう。実際に作ってから考えよう」
うんうん。
その慎重さも大事だ。
図面だけで完璧なものができるとは限らない。
実際に作り、使ってみて、問題があれば直す。
結局、それが一番確実なのだ。
「ところで、ちほ殿」
木工職人の一人が、資料を手にしたまま私に尋ねた。
「この換気という仕組みだが、倉庫だけでなく、住居にも使えるのではないか?」
「もちろんです。人が暮らす場所でも、空気を入れ替えるのは大切ですよ」
「なら、家を建てるときにも考えた方がよさそうだな」
「そうですね。ただ、冬場は冷たい風が入りすぎないようにする工夫も必要だと思います」
「ふむ。季節によって使い方を変えるわけか」
職人たちは、また何やら相談を始めた。
……あれ?
倉庫の換気について話していたはずなのに、いつの間にか住居の話まで広がっている。
まあ、いいか。
一度覚えた知識は、別の場所でも使える。
それに、村の人たちが自分たちで応用してくれるなら、私が全部の建物について考える必要もなくなる。
これは大きな進歩だ。
「それで、ちほ殿。もう一つ聞きたいのだが」
「はい?」
「この換気を、もっと強くする方法はないだろうか?」
職人の質問に、私は少し考えた。
「そうですね……。風を利用する方法もありますし、空気の流れを作る仕組みを工夫する方法もあります」
「空気の流れを作る仕組み?」
「例えば、風が当たる場所に筒のようなものを設けて、空気を引き出しやすくするとか……」
私は資料を探しながら、煙突のような仕組みについて説明した。
暖かい空気が上へ流れる性質を利用すれば、風が弱い日でも空気の入れ替えを助けられる可能性がある。
ただし、建物の形や風向きによって効果は変わる。
実際に試してみる必要があるだろう。
「なるほど。なら、上に伸びる竹の筒を使えないだろうか?」
「雨が入らないようにする必要があるな」
「筒の太さを変えて、比べてみるのもよさそうだ」
職人たちは、また自分たちで考え始めた。
私はその様子を見ながら、思わず笑ってしまった。
換気扇が使えないから自然換気を考えよう。
ただ、それだけの話だったはずなのに。
気がつけば、木材と竹を使った換気設備の試作計画までできている。
「これは、完成が楽しみですね」
「まずは小さなものを作って、風の通り方を確かめてみます」
「うまくいけば、倉庫だけでなく、ほかの建物にも使えるかもしれませんな」
職人たちは、すでに試作品の材料を集め始めていた。
よし。これなら、私がずっと付きっきりで教えなくても大丈夫そうだ。
もちろん、換気扇を取り付けられるような設備ができれば、もっと便利になるかもしれない。
でも、それは先の話。
まずは、今ある木材と竹を使って、できることから始めよう。




