鞄の接続問題と、まさかの解決策!
「さとるさー!」
私は鞄を開いて、地球にいる弟に声をかけた。
「ん? どうしたの、姉さん?」
「ミカミさんに伝えておいてよ! この鞄って、私が持ち歩いても繋がったままなのかな?」
「……分かった。でも、鞄なんだから持ち運べるんじゃない?」
「……」
「……」
「……まあ、確かに」
言われてみれば、その通りだ。
そもそも鞄なのだから、持ち歩くことを前提に作られているはず。
「でも、念のためだよ! ほら、普通の鞄じゃないし!」
「それはそうだけどね」
「急に繋がらなくなったら困るでしょ?」
「まあ、ミカミさんに聞いておくよ」
「お願いね!」
私は鞄を置いて、ふうっと息を吐いた。
新しい家への引っ越しは楽しみだけど、地球との接続が切れてしまったら大問題だ。
さとると連絡が取れなくなるし、日本の店から必要な物を取り出すこともできなくなる。
……それは困る。
ものすごく困る。
「でもさ、姉さんからもミカミさんに連絡できるんじゃない?」
「できるけど、パソコンのところまで行かないと駄目じゃん!」
「……ああ、そうか」
「さとるはスマホを持ち歩けるでしょ? 私は鞄を開いて、わざわざパソコンの前まで移動しないといけないんだから!」
「確かに……」
そうなのだ。
鞄を通して地球側を覗けば、そこには実家の店がある。
でも、私が頭を出せる場所は、鞄が置かれている場所に限られる。
そして、ミカミさんと連絡を取るときは、基本的にパソコンの前まで行く必要がある。
スマホで連絡できるさとるとは、自由度が違うのだ。
「んー……」
さとるが考え込むように唸った。
「ねえ、姉さん」
「なに?」
「ルーターをそっちに置いてみる?」
「……ルーター?」
突然の単語に、私は首を傾げた。
「そうそう。Wi-Fiのルーターだよ」
「いや、それは分かるけど……。異世界にルーターを置くの?」
「うん。地球側のネット回線がどういう扱いになってるのかは分からないけど、もしそっちでも電波が使えるなら、ある程度の範囲ならスマホやパソコンが使えるようになるかもしれないでしょ?」
「……」
「鞄が地球と繋がってるんだから、試してみる価値はあるんじゃない?」
「……確かに」
言われてみれば、そうだ。
今まで私は、鞄を通して地球と連絡することばかり考えていた。
でも、もしルーターを異世界側に持ち込めるなら?
鞄の周辺でWi-Fiが使えるようになる可能性もある。
もちろん、異世界で電波が正常に飛ぶのかは分からない。
そもそも、地球のインターネット回線が異世界まで届くのかという問題もある。
だけど……。
「試してみる価値はあるね!」
「でしょ?」
「さすが、さとる!」
「いや、まだ成功するって決まったわけじゃないからね?」
「分かってるって!」
私は鞄を両手で持ち上げた。
これが成功すれば、かなり便利になる。
新しい家に引っ越したあとも、鞄を持って移動できるなら、好きな場所で地球と連絡が取れるかもしれない。
いや、待てよ?
もし異世界側でWi-Fiが使えるなら、スマホも使える?
地球の情報を調べたり、必要な資料を確認したりできるかもしれない。
……これは大きい!
「さとる! ルーター、お願い!」
「分かった。買っておくよ!」
「できれば、設定が簡単なやつで!」
「はいはい」
「あと、できれば小さいやつ!」
「分かったってば!」
よし。
これで一歩前進だ。
……いや、まだルーターを買ってもらう段階だけど。
それでも、できることが増えるかもしれないのは嬉しい。
「あ、そうだ。ミカミさんにも伝えておくからね」
「うん! 鞄を持ち歩いても繋がったままなのか、それとルーターを持ち込んでも問題ないのか。両方聞いておいて!」
「了解」
「よろしくねー!」
私は鞄を閉じた。
新しい家への引っ越し。
倉庫の建設。村の店の準備。
そして、地球との通信環境の改善。
……なんだか、やることがどんどん増えていない?
「私、いつになったら落ち着けるんだろう……」
思わず呟いた、そのときだった。
村の方から、建築の準備をしているらしい賑やかな声が聞こえてきた。
どうやら、私が小屋に戻っている間にも、みんなは新しい建物の準備を進めているらしい。
「……まあ、みんなが頑張ってくれているんだし、私も頑張らないとね!」
そう言って、私は立ち上がった。
ただし。
ルーターが異世界で使えるようになったら、少しくらいは楽をさせてもらおう。
……本当に、少しくらいは!




