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『異世界に行ったら、鞄の中が実家の商店でした』  作者: 稔


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村の新拠点、設計会議!

倉庫兼住居に店を併設する。

そんな話が決まった翌日、私は村長や職人たちと一緒に、建物の設計について話し合っていた。


「まず、倉庫と生活空間は、きちんと分けたいです」


「ふむ。具体的には?」


「保管する商品と、私たちが生活する場所が一緒だと、何かと不便でしょう? 食べ物を保管する場所と、木材や竹製品を置く場所も分けたいです」


村長が頷いた。


「確かに。木材と乾燥食品では、保管する条件も違うからな」


「そうです! 木材は風通しを良くして、湿気がこもらないように。乾燥食品は雨や虫から守れる場所に。完成した商品も、傷がつかないように保管したいですね」


「なら、床を地面から少し高くするのはどうだ?」


木工職人が提案した。


「湿気が床から上がってくるのを防げるし、風も通しやすくなる」


「いいですね! ただ、隙間から虫が入ったり、雨が吹き込んだりしないように工夫も必要です」


「なるほど。床を高くするだけじゃ駄目か」


「はい。屋根の張り出しを大きくしたり、雨水が建物の周りに溜まらないようにしたり。細かいところも考えたいです」


言いながら、私は用意してもらった板に、簡単な見取り図を描いていく。


もちろん、私に建築の専門知識があるわけではない。


日本で見た建物や、前世の知識を思い出しながら、希望を伝えているだけだ。


実際にどう作るかは、村の職人たちの知恵と経験に任せることになる。


「住居部分は、倉庫と壁で仕切りましょう。出入り口も別々にしたいです」


「店の入り口は、村の道に面した方がいいな」


「そうですね。商人さんが来たときにも、倉庫の奥まで入ってもらわずに済みますから」


「店には何を並べる?」


今度は村長が尋ねてきた。


「まずは、村で作った商品ですね。竹籠や木工品、それに乾燥キノコなど。あとは、外から仕入れた道具や生活用品も扱えれば便利だと思います」


「仕入れた物を村人に渡す場所にもできるわけか」


「はい。注文を受けたり、必要な物を配ったりする窓口にもできます」


「よし。それなら、店の管理をする者も必要だな」


……ん?


「管理って、私が全部やるんですか?」


「いやいや。村の者で交代して担当すればいいだろう」


村長はあっさり答えた。


「商品を並べる者、在庫を確認する者、売り上げを記録する者。それぞれ役割を分ければいい」


「それなら、私も手伝えるわ!」


近くにいた女性が声を上げた。


「私は品物の数を数えるのが得意よ」


「なら、俺は木工品の管理を担当しよう。どんな商品がいくつあるか、作った本人なら把握しやすいからな」


「乾燥食品は私たちで管理できるわ。傷んでいないかも確認しないとね」


おお……。


私が提案しただけなのに、みんな自分にできる仕事を考え始めている。


これなら、私がいなくても店を回せるようになるかもしれない。


……いや、まだ気が早いか。


建物すら完成していないのだから。


「それと、店に置く商品は、全部を一度に並べなくてもいいと思います。売れ行きを見ながら、種類や数を調整しましょう」


「なるほど。売れた物を記録しておけば、次に何を作るべきかも分かるな」


「そういうことです!」


商売は、商品を作って売れば終わりではない。


何が売れるのか。どれくらい必要なのか。

材料は足りているのか。


そうした情報を記録しておけば、村の生産にも役立つはずだ。


「よし! まずは建物の設計をまとめよう。必要な木材や竹の量も計算しないとな」


村長の言葉に、職人たちが頷く。


その後も、屋根の形や窓の位置、倉庫の棚、店の広さなど、いろいろな意見が出た。


私も希望を伝え、みんなで相談しながら、ようやく大まかな設計がまとまった。


「よし。あとは必要な材料を確認して、建築に取りかかろう!」


「よろしくお願いします!」


私は頭を下げた。

すると、村長が笑いながら言った。


「ちほ、引っ越しはまだ先だろうが、準備だけはしておいてくれよ」


「はい! 分かりました!」


……引っ越し、か。


そういえば、今住んでいる小屋には、私の荷物もある。


まあ、荷物といっても、鞄に入るものがほとんどだけど。


私は村の人たちに挨拶をして、小屋へと戻ることにした。


「それじゃあ、一度小屋に戻りますね!」


「おう! また明日、続きをやろう!」


村長たちに見送られ、私は森の中の小屋へ向かった。


◇


「ただいまー!」


小屋に戻ると、私はいつものように鞄を開いた。


「さとるー! いる?」


鞄の向こう側に向かって声をかける。


「いるよ! どうしたの?」


弟のさとるの声が返ってきた。


「私ね、近いうちにこの小屋から引っ越すことになった!」


「えっ!? 引っ越し!?」


「そう!」


「急だね! どこに引っ越すの?」


「村の中!」


「村の中?」


「そう! 倉庫兼住宅兼店の建物を作ることになったの!」


「……待って。倉庫と住宅と店?」


「うん!」


「一つの建物に全部まとめるの?」


「そうなった!」


「そうなったって……」


さとるが呆れたような声を出す。


「いや、最初は倉庫の話だったんだよ?」


「うん」


「商品が増えて、保管場所が足りなくなったからね」


「うんうん」


「そしたら、私の住んでいる小屋が村から離れていて不便だって話になって」


「うん」


「それなら倉庫と一緒に住居も作ろうって」


「……うん」


「さらに、村の商品を並べたり、商人さんと取引したりする場所もあった方がいいって話になって」


「それで店まで増えたんだね」


「そう!」


「……姉さんらしいね」


「どういう意味よ!」


「いや、別に?」


絶対に何か思っている。

まあ、否定はできないけど。


最初は村の商品を売るために手伝っていただけなのに、気づけば村の生産体制を整え、道具の修理を考え、倉庫を作り、店まで持つことになった。


どうしてこうなった。


「まあ、鞄があれば、引っ越し自体は問題ないか」


「確かに。荷物はほとんど鞄に入るもんね」


「うん。家具だって、必要な物は向こうで作ってもらえるだろうし」


「……でも、一つ問題があるよね?」


「ん?」


「鞄と店をつないでいる線。引っ越すなら、一度抜かないといけないんじゃない?」


「あっ!」


そうだった!


私の鞄は、地球にある実家の店とつながっている。

鞄から頭と片手を出して、さとると話せるのも、そのつながりのおかげだ。


つまり、今の小屋から新しい建物へ移るなら、接続先をどうするか考えなければならない。


「んー……。たぶん、一度線を抜かないと駄目だよね」


「だと思う。今の場所につないだまま引っ越すわけにもいかないし」


「だよねぇ……」


私は鞄を見つめた。

この鞄は、ただの収納袋ではない。

地球と異世界をつなぐ、大切な道具なのだ。


しかも、接続をどうやって変更するのか、私はよく分かっていない。


「ミカミさんに聞かないと駄目かな?」


「そうだね。勝手に抜いて、つながらなくなったら困るし」


「それは絶対に困る!」


地球の実家と連絡が取れなくなったら、さとるとも話せなくなる。

それだけは避けたい。


「引っ越しの日程が決まったら、早めにミカミさんに相談した方がいいよ」


「うん。そうする!」


私は鞄を閉じ、ふうっと息を吐いた。

村の新しい家ができるのは楽しみだ。


店ができれば、村の商品をもっと多くの人に届けられるかもしれない。


だけど……。


「家ができる前に、鞄の引っ越し問題を解決しないとね」


「鞄の引っ越しって、なんか変な言い方だね」


「うるさい!」


私は思わず笑ってしまった。

新しい家に、新しい店。

村の暮らしは、少しずつ変わり始めている。

ただし、私が無事に引っ越せるかどうかは、まだ分からない。


……お願いだから、鞄の接続だけは簡単に済んでほしい。


本当に、頼みますよ。ミカミさん!

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