倉庫問題と、村の新しい我が家!
「……うーん。やっぱり、倉庫が足りないですね」
私は村の倉庫を眺めながら、腕を組んだ。
商品や材料が増えてきたことで、今まで使っていた倉庫では手狭になってきたのだ。
木材に竹製品、木工職人が作った品物、乾燥させた果物や椎茸。
それに、これから商人に売る予定の商品もある。
「ちほ殿、どこに置けばよいのか、そろそろ困ってきましたな」
村長さんも困った顔をしていた。
「そうですね。全部を一緒に置くわけにもいきませんし」
木材と乾燥食品を同じ場所に置くのは、あまりよくない。
食品は湿気や虫に気をつけなければならないし、木材や竹製品も保管方法によっては傷んでしまう。
完成した商品だって、雨に濡れたり、乱雑に積み重ねたりすれば、売り物にならなくなる可能性がある。
「まずは、何をどこに保管するのか決めましょう」
私がそう提案すると、村人たちが集まってきた。
「木材は、今の倉庫とは別にした方がよいでしょうな」
木工職人が言った。
「木材は乾燥させる必要があります。湿ったまま保管すると、後で使うときに問題が出ることもありますから」
「竹も、乾燥させた物と加工途中の物は分けたいですね」
竹細工職人も続けた。
「それから、完成した籠や木工品は、できるだけ雨や土埃が入らない場所に置きたいです」
なるほど。
それぞれの職人には、それぞれの事情がある。
材料を保管する場所。
加工途中の物を置く場所。
完成した商品を保管する場所。
さらに、乾燥食品は湿気や虫を防げる場所に置かなければならない。
「うーむ……。倉庫と一口に言っても、いろいろ考える必要がありますね」
「そうですな。今までのように、一つの場所に何でも置いておくわけにはいかなくなりました」
村長さんは頷いた。
「では、用途ごとに保管場所を分けることにしましょう」
「そうですね。新しく建てるなら、最初から使い道を決めておいた方がよさそうです」
私は紙を広げ、簡単な図を描いた。
木材は、風通しを確保しながら雨に濡れない場所へ。
竹製品も、湿気がこもらないようにする。
乾燥食品は、雨や虫、湿気から守れるように、清潔に保管できる場所を用意する。
完成した商品は、種類ごとに整理して、商人が来たときにすぐ取り出せるようにする。
「こうして考えると、保管場所をきちんと分けるだけでも、ずいぶん仕事がしやすくなりそうですね」
「ええ。何がどこにあるのか分かれば、探す手間も減りますからな」
「それに、商品を傷めずに済みます」
うんうん。
せっかく職人さんたちが良い物を作っても、保管方法が悪くて傷んでしまったら意味がない。
作ることだけでなく、作った物を守ることも大切なのだ。
「では、村にある木材や竹を使って、倉庫を増やす方向で考えましょうか」
私がそう言うと、村人たちも賛成してくれた。
「よし! 皆で作るべ!」
「おお!」
なんだか、ずいぶんと話が早い。
まあ、材料になる木材も竹も、この村にはある。
職人さんたちもいるし、必要な物を相談しながら作れば、村の力で建てられるだろう。
そんなことを考えていると、村長さんがふと思い出したように私を見た。
「ところで、ちほ殿」
「はい?」
「森の中の小屋から、毎日ここまで通うのも面倒ではありませんかな?」
「……え?」
突然の質問に、私は目を瞬かせた。
確かに、私の住んでいる小屋は森の近くにある。
村まで通えない距離ではないけれど、何か相談があるたびに行き来するのは、それなりに手間が掛かる。
それに、商品や材料について相談したいとき、すぐ近くにいれば便利なのは間違いない。
「まあ、少しは面倒ですけど……」
「ならば、いっそのこと、村に倉庫兼住居を建てるのはどうでしょう?」
「えっ!?」
思わず声が裏返った。
「倉庫兼住居、ですか?」
「そうです。商品を保管する倉庫を作り、その一角をちほ殿の住まいにするのです」
村長さんは、さも当然のように説明した。
「ちほ殿が村にいてくだされば、わしらも安心ですからな。相談したいことがあれば、すぐに話ができますし」
「いや、でも……」
私は思わず周囲を見回した。
すると、近くにいた村人たちまで頷き始めた。
「確かに、それはいい考えだな!」
「ちほさんが村にいてくれれば、相談もしやすいです!」
「商品を持っていくときも、近くにいた方が便利ですしね!」
「よし! 皆で作るべ!」
いやいやいや!
皆さん、盛り上がりすぎじゃありませんか!?
私の住む場所が、いつの間にか村の建築計画に組み込まれているんですけど!
「ええと……私の住む場所まで、村で建ててもらっていいんですか?」
「もちろんですとも!」
村長さんは、力強く頷いた。
「ちほ殿には、これまで村の発展にずいぶんと力を貸していただきました。これくらいは、わしらにもさせてくだされ」
「そうそう! 遠慮することはない!」
村人たちも口々に言う。
……うーん。
これは、断りにくい。
そもそも、村の発展を手伝っているのは、私が好きでやっていることでもある。
でも、村人たちが自分たちから住む場所を用意すると言ってくれるのは、素直に嬉しかった。
「……ありがとうございます」
私は、少し照れながら頭を下げた。
すると、村長さんはさらに話を続けた。
「それで、ちほ殿。どのような倉庫兼住居がよろしいですかな?」
「えっ、もう設計の話ですか!?」
「はっはっは。建てるなら、希望を聞いておいた方がよいでしょう」
いや、確かにそうだけど!
「倉庫と住居を一緒にするなら、保管する商品と生活空間は分けたいですね」
「ふむふむ」
「それから、窓も欲しいです。風通しも大切ですし、明るい方がいいですから」
「窓ですな。分かりました」
「あと、乾燥食品を保管する場所は、湿気や虫が入らないように工夫したいです。完成した商品も、きちんと整理できる棚があると便利ですね」
私が希望を伝えるたびに、村長さんが紙に書き留めていく。
木工職人も横から覗き込んでいた。
「それなら、倉庫部分は広めにして、住居部分は別の区画にした方がよさそうですな」
「そうですね。生活する場所に、商品や材料が入り込んでくるのは困りますから」
「火を使う場所も、保管場所とは分けた方がよいでしょう」
「それもお願いします!」
なんだか、本格的な打ち合わせになってきた。
倉庫の広さ。住居の間取り。窓の位置。
商品を運び込むための出入口。
保管用の棚。
考え始めると、必要なことが次々に出てくる。
そして、村長さんが最後に、とんでもない提案をした。
「それから、ちほ殿」
「はい?」
「せっかく村の中に建てるのです。窓口として、小さな店も併設してはいかがでしょう?」
「……店?」
私は首を傾げた。
「はい。村で作った商品を並べたり、村人が必要な物を受け取ったりできる場所です。商人が来たときにも、商品の確認や受け渡しがしやすくなります」
「ああ、なるほど!」
それは確かに便利かもしれない。
村で作った商品を倉庫に保管しておき、必要に応じて店の部分へ運ぶ。
商人が来たら、そこで商品を見せたり、取引の相談をしたりできる。
村人たちにとっても、商品や材料の管理がしやすくなるだろう。
ただし、店を作るなら、何を売るのか、誰が管理するのかも考えなければならない。
私が全部を担当するのでは、今以上に忙しくなってしまう。
「店を作るのはいいと思います。でも、私一人で管理するのは難しいですよ?」
「もちろんです。村の者たちで役割を分担しましょう」
村長さんは即答した。
「ちほ殿には、地球との取引や商品の相談など、必要な部分をお願いできればと思っています」
「なるほど。それなら、何とかなるかもしれませんね」
村の人たちが作った商品を、村の中で管理する場所。
そして、商人との取引を進めるための窓口。
それがあれば、村の産業も、もう一段階進められるかもしれない。
「……うーん。倉庫を作る話だったのに、いつの間にか家と店まで増えちゃったなぁ」
私は思わず呟いた。
「はっはっは! 村が発展している証拠ですな!」
村長さんは楽しそうに笑った。
いや、まあ、確かにそうなんだけど!
私は新しく描かれた建物の図を覗き込んだ。
倉庫。住居。店。
三つの役割を持つ建物。
村の木材や竹を活用し、村人たちの技術で建てる。
完成すれば、商品の保管も、取引も、私の生活も、ずっと便利になるだろう。
「よし。それなら、みんなで考えて、使いやすい建物にしましょう!」
私がそう言うと、村人たちは嬉しそうに声を上げた。
「おお!」
「皆で作るべ!」
「いい建物にしましょう!」
……うん。
村の発展は順調だ。順調なんだけど。
「これ、完成したら、私の仕事がさらに増えるんじゃ……?」
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
倉庫を管理して、店の相談をして、商品の受け渡しをして。
……いやいや。
そこは村の人たちと分担するんだ。
私は自分にそう言い聞かせた。
せっかく村の皆が、自分たちの力で発展しようとしているのだから。
私も、できる範囲で手伝っていこう。
そして、いつかこの村が、私がいなくても自分たちで回っていけるようになればいい。
……まあ、その頃には、今度こそ地球に帰れる方法も見つかっているといいんだけどね!




