商人への注文、最終確認!
「……あれ? こんなに増えた?」
私は机の上に広げた注文書を見つめていた。
最初は、村人たちの生活に必要な物を買い揃えるだけのつもりだった。
ところが、道具の修理について考え始めたら、鍛冶に必要な道具や交換用の部品、木工道具まで追加されてしまった。
「うーむ……」
紙の上には、たくさんの品物が並んでいる。
「ちほ殿、やはり多すぎますかな?」
村長さんが心配そうに尋ねてきた。
「多すぎるというより、全部買う必要があるのか、もう一度確認したいですね」
「なるほど。確かに、必要な物をすべて買っていたら、いくらお金があっても足りませんな」
そうなのだ。
前回、商品を売って三万枚もの金貨を手に入れた。
けれど、だからといって、何でも買っていいわけではない。
村を発展させるためのお金は、これからも必要になる。
次の商品を作るための材料費も必要だし、生活に必要な物だって買わなければならない。
できるだけ無駄な出費は抑えたい。
「まずは、鍛冶道具から確認しましょう」
私は鍛冶職人が作ってくれた一覧を取り出した。
「今ある道具ではできないことと、今ある道具でも工夫すればできることを分けてみましょう」
「ふむ。すべて新しく買うのではなく、今ある物を活用するのですな」
「はい。買った方がよい物もあれば、今は買わなくてもよい物もあるはずです」
私は一覧に目を通していった。
鍛冶に必要な道具の中には、今ある設備で代用できそうな物もあった。
一方で、どうしても不足している物もある。
そうした物は、無理に代用品で済ませるより、きちんと購入した方がよいだろう。
特に、金属を加工する際の安全性や、仕上がりに関わる物については慎重に考えなければならない。
「では、これは購入。こちらは、今ある物で試してみる……と」
私は注文書に印を付けていった。
次は、木工道具だ。
「木工道具については、どうでしょう?」
「こちらは、村で作れる物もありますな」
木工職人が説明してくれた。
「木製の作業台や簡単な治具などは、材料があれば自分たちで作れます。使いやすい形に改良することもできますしな」
「なるほど!」
自分たちで作れる物まで、わざわざ買う必要はない。
ただし、刃物など、専門的な加工が必要な道具は別だ。
村で作れる物と、買った方がよい物を分ければ、かなり費用を抑えられるはずだ。
「交換用の部品についてはどうでしょう?」
「木製の柄なら、村で作れます。竹製の部品も、ある程度は対応できるでしょう」
「それなら、必要な材料を確保しておけばよさそうですね」
「ええ。ただし、すべての道具に使えるわけではありません。形や寸法が違えば、専用の部品が必要になることもあります」
「分かりました。そこは無理をしないようにしましょう」
私は、さらに注文書を整理していった。
買う物。村で作れる物。
今ある物を工夫して使う物。
そして、まだ技術が足りず、今は対応できない物。
こうして分類してみると、最初に考えていたよりも、購入しなければならない物は少なくなってきた。
「……うん。これなら、ずいぶん整理できましたね」
「そうですな。最初は何もかも必要に思えましたが、分けてみると違いますな」
村長さんも納得したように頷いた。
私は注文書を眺めながら、ふと思った。
こうやって、できる事とできない事をはっきり分ければ、棲み分けができるわね。
木工職人は木工の仕事をする。
竹細工職人は竹を使った製品を作る。
鍛冶職人は金属の加工技術を伸ばしていく。
それぞれが得意な分野を担当し、難しい部分は協力したり、必要に応じて外から購入したりすればいい。
すべてを一人で、あるいは一つの職人集団だけで解決する必要はないのだ。
「村長さん。これからも、できる事とできない事を分けて考えていきましょう」
「それがよろしいですな」
「そうすれば、必要以上にお金を使わなくても済むはずです」
もちろん、節約することだけが目的ではない。
今はできないことでも、将来的に技術を身につければ、できるようになるかもしれない。
だからこそ、できないことを把握しておくのも大切だ。
何が足りないのかが分かれば、勉強するべきことも、購入するべき道具も見えてくる。
「それに、村で作れる物が増えれば、商人さんから買う物も減らせますからね」
「確かに。村の中で作れる物は作り、外から買う必要がある物は買う。その方が、長い目で見ればよさそうですな」
「はい!」
私は元気よく返事をした。
そして、最後に注文書の合計金額を計算する。
「……よし!」
最初に計算した金額より、かなり少なくなっていた。
もちろん、まだ安い買い物ではない。
それでも、必要な物を優先して購入し、残りのお金を今後のために確保できる。
これなら、次の商品作りにも支障は出にくいだろう。
「これで最終確認は終わりですね」
「お疲れさまでした、ちほ殿」
「いえいえ。皆さんが必要な物をきちんと教えてくれたおかげですよ」
私だけで考えていたら、きっと必要な物を見落としていただろう。
職人さんたちが自分たちの仕事を見直し、何が必要なのかを考えてくれたからこそ、ここまで整理できたのだ。
村長さんは、完成した注文書を大切そうに受け取った。
「これで、次に商人が来たときの準備は整いましたな」
「そうですね。あとは、実際に商人さんが来てから、価格を確認して注文しましょう」
「うむ。予算を超えるようなら、その場で数量を調整すればよいですな」
「はい。無理をして全部買う必要はありませんから」
これで、ようやく一段落だ。
私は椅子の背もたれに体を預けた。
……ああ、疲れた。
村の発展って、物を作るだけじゃないんだね。
何を作るのか。何を買うのか。
どこまで自分たちでできるのか。
そして、今はできなくても、将来できるようにするには何が必要なのか。
考えることが、本当にたくさんある。
「……まあ、少しずつ進めていきましょう」
私は自分に言い聞かせるように呟いた。
できる事から始める。
できない事は、できないと認める。
そして、できるようになるために、必要な知識や道具を揃えていく。
それが、今の村に合った発展の仕方なのだろう。
……うん。
いい感じにまとまった!
そう思った、そのとき。
「ちほ殿。ところで、次は村の倉庫について相談したいのですが……」
「えっ!?」
私は思わず顔を上げた。
「倉庫?」
「はい。商品や材料が増えてきましたので、保管場所を見直した方がよいかと」
「……ああ、なるほど」
確かに、それも必要だ。
材料や完成品を適切に保管できなければ、せっかく作った物が傷んでしまうかもしれない。
でも。
「村長さん、少しだけ休憩してからでもいいですか?」
「もちろんですとも!」
……よかった。
さすがに、今日はもう少し休ませてもらおう。
村の発展は、まだまだ続くのだから。




