修理の記録と、ユーカリの可能性!
斧の柄を修理できたことをきっかけに、村では壊れた道具を集めて、修理できる物とできない物を分類することになった。
「これは柄が折れているだけですな」
「こちらは、木の部分を交換すれば使えそうです」
「うーむ。これは金属の部品そのものが壊れている。今の設備では難しいな」
木工職人や竹細工職人、鍛冶職人たちが、それぞれの得意分野を活かして道具を確認していく。
修理できる物。
部品を交換すれば使える物。
今の村では修理が難しい物。
大きく三つに分類していった。
「こうして見ると、意外と修理できそうな物が多いですね」
私が言うと、木工職人が頷いた。
「ええ。今までは壊れたら新しい物を用意するしかないと思っていましたが、壊れた部分だけを直せばよい物もありますな」
「そうですよね。全部を買い直す必要がなければ、お金も節約できますし」
村で使う道具は、これからも増えていくだろう。
そのたびに壊れた物を捨てて、新しい物を買っていたら、いくらお金があっても足りない。
修理できる物は直して使う。
それだけでも、村の暮らしはずいぶん変わるはずだ。
「では、修理した道具については、記録を残していきましょう」
村長さんが紙を広げた。
「どのような材料を使ったのか、どこを直したのか。そして、修理した後の使い心地も記録するのです」
「いいですね!」
私は大きく頷いた。
「うまくいった方法だけじゃなくて、失敗したことも書いておきましょう。次に同じことをするとき、参考になりますから」
「なるほど。失敗も無駄にはならないということですな」
「はい!」
こうして、村では修理の記録を残すことになった。
そして、最初に記録することになったのは、先日修理した斧だった。
木工職人は、ユーカリで作った柄を手に取り、改めて状態を確認していた。
「ふむ……今のところ、問題はなさそうですな」
「使い心地はどうですか?」
「握りやすさは悪くありません。以前の柄と比べても、十分に使えそうです」
「おお!」
私は思わず声を上げた。
地球から持ち込んだユーカリが、こんなところで役に立つとは。
木材として使えることは分かっていたけれど、道具の柄にも利用できる可能性が出てきたのだ。
もちろん、まだ一本を試しただけ。
長く使ったときにどうなるのか、ほかの木材と比べてどうなのかは、これから確かめなければならない。
それでも、試してみる価値は十分にある。
木工職人は、ユーカリの柄を指で叩きながら言った。
「このユーカリは、やっぱり硬いんだな」
「そうだなぁ」
別の木工職人も、木材の表面を確かめながら頷いた。
「普通の木材とは、削ったときの感触も違います。硬い分、加工には少し手間が掛かりますな」
「なるほど。丈夫な物を作るにはよさそうだけど、加工するのは大変なんですね」
「ええ。硬ければ何でもよいというわけではありません。道具の柄に向いているかどうかは、実際に使って確かめる必要があります」
さすが職人さん。
ただ硬いから使おう、という単純な話ではないらしい。
木材には、それぞれ特徴がある。
加工しやすい木もあれば、硬くて丈夫な木もある。
軽い木が向いている用途もあるだろうし、多少重くても丈夫な方がよい用途もあるはずだ。
「じゃあ、ほかの木材でも同じように柄を作ってみたらどうでしょう?」
私が提案すると、木工職人は少し考えた。
「なるほど。今まで使っていた木材でも同じ形の柄を作り、使い心地を比べるわけですな」
「そうです。重さや握りやすさ、使っているうちに緩まないかなど、比べてみると違いが分かるかもしれません」
「それは面白そうですな」
木工職人の目が輝いた。
おお、やる気になってくれた!
ユーカリが特別に優れているのか、それとも用途によって向き不向きがあるのか。
実際に比べてみれば、分かることも多いだろう。
「では、何種類か作ってみましょう。使った結果も記録しておけば、次に作るときの参考になります」
「お願いします!」
こうして、ユーカリの木材としての可能性を調べることにもなった。
……うん。
資源の活用が、また一つ進んだ気がする。
一方で、鍛冶職人の方は少し苦戦していた。
「ちほ殿、こちらを見ていただけますか」
呼ばれて行ってみると、机の上にいくつかの金属部品が並べられていた。
「これは?」
「道具から外した金属部品です。単純な形の物なら、今ある設備でも加工できそうなのですが……」
鍛冶職人は、一つの部品を手に取った。
「形が複雑な物や、強度が必要な物になると、今の設備では難しいのです」
「やっぱり、そうですか」
金属を熱して加工する技術があっても、それだけですべての修理ができるわけではない。
必要な道具もあるし、金属の性質についても学ばなければならない。
それに、無理に修理して壊れやすくなったり、使っている途中で破損したりしたら危険だ。
「できることから、少しずつですね」
「はい。今は簡単な部品の加工から経験を積んでいきたいと思います」
「分からないことがあれば、資料を確認しましょう。必要な道具があれば、次に商人さんが来たときに注文できますし」
そう答えたところで、私はふと思い出した。
そうだった。
次の商人が来たら、村に必要な物をまとめて注文する予定だった。
鍛冶の道具も、そこで相談することになっている。
「……あれ?」
私は注文書のことを思い出し、首を傾げた。
「鍛冶に必要な道具も、リストに入れておかないとね」
「そうですな。何が必要なのか、こちらで整理しておきましょう」
鍛冶職人が頷いた。
「ただ、何でも買えばよいというわけではありません。今ある設備で代用できる物もあるでしょうし、まずは本当に必要な物を選びたいと思います」
「それがいいですね!」
新しい道具を買うのは簡単だ。
でも、買っただけで使いこなせなければ意味がない。
村にある設備を確認し、何が足りないのかを調べる。
そして、必要な物だけを注文する。
以前、村長さんと一緒に決めた方針が、ここでも役に立ちそうだ。
私は紙を取り出し、鍛冶職人から必要な道具について話を聞き始めた。
「まずは、今ある道具と不足している道具を分けましょう。用途も書いておけば、注文するときに分かりやすいと思います」
「分かりました。職人たちと相談して、一覧にまとめておきます」
「よろしくお願いします!」
これで、木工職人たちは修理の技術と木材の研究を進め、鍛冶職人たちは金属加工の技術を少しずつ身につけていくことになる。
村の発展は、商品を作って売るだけではない。
道具を長く使うための修理技術も、材料を上手に使うための知識も、これからの村には必要なのだ。
「うむ。こちらもいい流れ」
私は満足して頷いた。
……ただし。
「ちほ殿、ほかにも修理できそうな物が見つかったのですが」
「えっ、まだあるんですか!?」
どうやら、村の中には、壊れたまま放置されている道具がまだまだあるらしい。
「まあ、順番にやっていきましょう!」
私は自分に言い聞かせるように宣言した。
焦らず、一つずつ。
修理できる物が増えれば、それだけ村の暮らしも豊かになる。
そして、ユーカリの新しい使い道まで見つかれば、一石二鳥だ。
……いや、三鳥くらいあるかもしれない。
私はそんなことを考えながら、次の作業へと向かった。




